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2020
01.04

【15話】強引御曹司に注がれる溺愛の味

毎日無料

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「俺は初耳だよ。いや、待てよ? もしかして、二件先のビルに入ってる『サロン・ド・テ・ミシェル』のことじゃないのか」
「『サロン・ド・テ・ミシェル』!?」
 思わず声を上げると、蒼真がベッドサイドに置いていた彼のスマホを手にした。
「ほら、ここだろ。失恋がどうのってのは、もっと調べないとわからないな」
 提示された画面を見ると、確かにすぐそばに別のお茶のカフェがある。
「サロン・ド・テ、っていう名前までは覚えてたんです。そういう名前のカフェがいくつもあるとは思わなくて、てっきりここがそのお店かと……」
「調べなかったのか」
「仕事帰りに勢いで電車に乗り込んだんです。覚えている以外に調べるのが面倒になってしまって、なんとなくの記憶を頼りにきました」
「それもすごいな」
「だから私、あなたも失恋していると思い込んでいました。癒されるお店だから、あなたがここに来て、私にも親切にしてくれたんだって」
「それで俺の話を聞くだなんて言ったのか。俺が常連だと言ったら、すごい顔してたもんな。何度も失恋して傷ついた男に見えたってわけか、ははっ」
 屈託のない笑顔を見せながら、蒼真は涼子の方へ体勢を変えた。彼の香りがふわりと鼻をくすぐる。甘味と苦みの残るフレグランスは、涼子の好みだ。
「俺が君に癒しのお茶を教えた。だからお礼に、俺の傷ついた話を聞こうとしてくれたんだな。……優しいな、涼子は。それに……可愛い」
 目を細めて優しい声で言う。涼子は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「間違えただけで、優しくはないですし、か、可愛くもないです」
「もしかして、こういうことが目当てで店にきたわけじゃないよな?」
 蒼真が長い指で涼子の髪を撫でながら問う。その指についさっきまで散々感じさせられたことを思い出し、さらに涼子の顔が上気した。
「こういうこと、って?」
「男に抱かれること」
「ち、違います! 美味しいお茶に癒やされに来たんです。こういう癒され方は……想像もしてませんでしたから」
 慌てて彼の腕の中で否定した。
 ボロボロだった心を温かいお茶で慰めてほしかったのは本当だ。だが、誰かの腕の中にいることはまったく想像などしていないし、思いつきもしなかった。蒼真――彼のふとした優しさに心がゆるんだのは否めないが。
「そうか、よかった」
 涼子の言葉を聞いて、ホッとしたように蒼真が笑う。
(よかったって、何が……?)
 不思議に思いながらも、なんとなく問いかけることはせずにいた。聞いてはいけないような気がしたからだ。
「まぁ、あっちの店じゃ、こんなふうに癒してくれる男なんていないだろうけどな」
「……ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ」
「迷惑だったでしょう? いきなり泣き出したり、癒されたいなんて言い出して。変な女だっただろうなって」
「迷惑どころか俺は感謝したいね」
「感謝?」
「涼子と出会えたことに、感謝したい」
「あ……」
 ぎゅっと抱きしめられて息が詰まりそうになる。一夜だけの関係とはいえ、愛おしげに涼子を扱うから、大切にされているような勘違いをしてしまいそうだ。
「涼子は何歳なんだ? 俺は三十」
「私は二十六」
「俺の四個下か。仕事帰りってことは、職場も中目黒?」
 涼子の額に唇をあてながら、彼が問うた。
「いえ、八王子なんです。住んでいるところも。あなたは?」
「八王子から来たのか。俺の職場は品川。涼子の職種は?」
「プラスチック工場が併設されている会社で、事務をしてます」
「八王子のプラスチック工場……?」
 蒼真は何かを思い出したように、ふむ、とうなずいた。

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