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【24話】元カレ同期は諦めない~すました彼の冷めない欲情~

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5.最後のデート

「柏木くん本当に海外行くんだね~」
「……ですねえ……」
 匡吾が海外へ行くのは五日後らしい。やけに急な話に、眞妃はまだ頭が追い付いていない。
「寂しい? 厳しく言い合える人がいなくなるのは」
「そ、そんなことないです」
 正直なところ急すぎて、寂しいとすら思わない。ただただ戸惑ったまま日々が過ぎていく。匡吾のデスクから物が減っていくのを見ていると、心の中に穴が空いていくみたいだった。
 匡吾が海外へ行くため、眞妃のプロジェクトの責任者は部長に変更された。名前が抜けたのを見てようやく寂しいという感情が芽生えてきた。例のプロジェクトは順調に進んでいて、もうすぐサンプルが仕上がる予定だ。それを匡吾と分かち合えないのは残念でもある。
「鳴海、今日も残業か」
「……柏木くん、お疲れさま。ちょっとだけね」
 匡吾はすでにカバンを持っているのでもう帰るところなのだろう。海外へ行くなら家のほうも準備が大変そうだ。匡吾はきょろきょろと周りを見回したあと、眞妃のデスクに手をついた。
「あのさ、俺が行く前に、休みの日に会わないか」
「え」
 匡吾がまだ誘ってくれるのは予想外だった。あの日ですべてが終わりだと思っていた。
「結局あれから飯食ってるだけだろ。これで最後にするから」
「……うん」
 迷ったけれど、頷いていた。休日一緒にいることでさらに離れがたくならないかな、と不安にはなる。でももっと一緒にいたいというのが正直な気持ちだ。
 
 
 匡吾とは休日の昼過ぎに駅前で待ち合わせをした。
 約束をした時、全部任せろと言ってくれたので、眞妃はなにも考えずに少しのオシャレをして待ち合わせ場所に向かった。待ち合わせの五分前。なのに匡吾はすでにその場所にいた。いつだって眞妃を待たせることはしない。
「匡吾、お待たせ」
「待ってない」
 いつものセリフについ口元が緩む。
「今日はどこに行くの?」
「映画」
 短くそう言って匡吾は眞妃の手を取る。指を絡めて握り締める。まだこういうことしてくれるんだ、とくすぐったくなった。
 匡吾の私服は久しぶりに見た。カーキ色のテーパードパンツにシンプルな黒のカットソーとジャケット。それだけのアイテムでこんなにサマになるのはずるい。相変わらずセンスが良い。眞妃も一応最後のデートということで気合を入れて、大人っぽいきれいめのワンピースにした。でも匡吾のことだから気づきもしなさそうだ。
「……なんか変な感じだね」
「そうかもな」
 匡吾はなぜかこちらを見ずにまっすぐ前を向いて歩く。速足なので眞妃は小走りになるしかない。でも身長も全然違うし足の長さも全然違う。ついていくのも厳しくなる。
「匡吾、ちょっと速い」
「……悪い」
 ぴたりと立ち止まってくれたので、その隙に乱れた呼吸を整えた。匡吾を見上げると、彼は口を手で押さえてちらりと眞妃に視線を移す。
「緊張してた」
「えっ……匡吾が?」
 まるい目をして彼を見上げる。淡々としている彼が緊張しているところなんて、見たことがない。
「なんだよその顔は」
「だって、なんか意外すぎる」
「お前が可愛い恰好してるからだろ、アホ」
 じろりと眞妃を睨む匡吾の顔はわずかに赤くなっていた。今さら知るいろいろな表情に、眞妃は胸の中がざわつくのがわかった。
「逆切れ……」
「うるさい。行くぞ」
 手を強く握られて、今度はゆっくりのペースで歩き始める。
 匡吾は眞妃の服に気づいてくれた。それだけで彼が変わったのだとはっきりわかる。
 映画は何を観たいのかと思っていたら、眞妃に選ばせてくれたので匡吾も楽しめるんじゃないかと思い、アクション映画を選んだ。いま話題の最新作だ。チケットも飲み物も匡吾が買ってくれて、眞妃はただ待っているだけだ。いいのかな、と思いながらも彼のエスコートに感動していた。再会してから驚かされることばかりだ。
「もっと雰囲気の良い映画選ぶかと思った。恋愛もの好きだろ」
 思ったよりも隣が近い座席に座ると、匡吾は眞妃の耳に口を寄せ小声で話す。たったそれだけで眞妃の身体はぞくりと反応してしまった。
「だ、だって匡吾は苦手でしょ?」
「俺のこと気にしてくれたのか」
「あ、当たり前……」

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