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【22話】元カレ同期は諦めない~すました彼の冷めない欲情~

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「鳴海お疲れ。カフェオレ」
 名前を呼ばれ振り返ると、匡吾がオフィスで入れたカフェオレを持って立っていた。
「え、私に?」
「当たり前」
 めずらしいことをする……というかこんなこと初めてだった。おかげで周りのデスクのメンバーも驚いて目を見開いている。
「あ、ありがとう……」
 どういう心境の変化かと、眞妃も戸惑っていた。
「企画書できそうか?」
「はい。ばっちり」
 企画書は前回も匡吾に見てもらっていたから自信はある。
「会議は明後日か。プレゼンの練習するか?」
「大丈夫、なはず……」
「わかった。必要なら呼んでくれ」
 力強くうなずいた。ありがたい言葉だけど、今は匡吾には頼りたくないという気持ちがある。彼にばかり頼っていては一人前になれない。それに、匡吾に認めてもらいたいという気持ちが何より強い。
「ありがとう」
 けれどもちろん、そのことは匡吾には言えない。微笑み返すと隣で呆然と見ていた同期が眞妃と匡吾を交互に見やる。
「……なんか二人、仲良くなったね」
「っ、そ、そう?」
 単純に客観的に見ての意見なのだろうけれど、眞妃からしたら匡吾といろいろなことがあっただけに動揺を隠せない。
「信頼し合ってるというか。あんなに意見食い違ってたのに」
 今だって意見の食い違いは多い。とはいえ争うようなことは減ってきた実感もある。
「こいつが成長したってことじゃないですか」
「っ、ちょっと! ……でもまあようやく柏木くんに追いついてきたってことかな」
「それはまだまだ」
 匡吾が口角を上げて微笑んだ。ドキリとして目をそらすと「がんばれよ」とだけ残して、背を向けて行ってしまった。
「……柏木くんのあんな顔初めて見た。表情筋使えるんだ……」
 彼女は匡吾の背中を見送りながら呆気に取られていた。眞妃はほんの少しの優越感を抱えながら、仕事に戻る。
 デスクに戻った匡吾をちらりと見ると、電話をしていた。彼は他のプロジェクトの指導も始めたらしく、忙しいらしい。それなのに眞妃のことを気にかけてくれたのだと思うと、胸の奥がきゅっと搾られるみたいに苦しくなった。
 これではだめだと眞妃のパソコンに向き直る。
 二回目の検討会は明日だ。
 資料を万全にするだけでなく、自分のコンディションも大事で、説得力のあるプレゼンをできるようになることが重要だ。頭の中に浮かぶのは匡吾しかいない。彼の冷静な分析力は説得力があった。眞妃は収集した過去のデータを見直す。現場を知らない上層部には数字で説明をするのが一番効果がある。
 気づくのが遅すぎるけれど、気づいた今がチャンスだ。
 
 
 眞妃としては準備を万端にして二回目のプレゼンに挑んだ。
「――前回ご指摘された通り、機能および予算を再検討いたしました。機能はほぼ変更がありませんが、調光調色の種類を変更し、少しだけ価格を下げました」
「それだけ?」
「はい」
 眞妃は自信満々に頷く。想像通り、上層部の印象は良くない。
「ですが、機能面の改善が大きな売上につながると考えています」
「……根拠は?」
「はい。過去のデータを調べたところ――」
 眞妃は過去十年の売上をグラフにしたものをモニターに映す。それは既存商品を改良してリリースした時の売上だ。どういうパターンで改良をしているかをわかりやすく表にして、売上の差がわかるようにした。
「このように、色やデザインの変更のみでは売上効果があるものの、少ないことがわかります。一方で機能改善では大幅に売上が増大しています」
「……なるほどねえ……」
 彼らはふむふむと頷きながらモニターを興味深そうに見ている。
「それから、お客様アンケートの一部にも機能改善についてのコメントは多くいただいております」
 抜粋したアンケートもモニターに映す。上層部の面々は特にアンケート結果なんて目を通さないだろうから、新鮮に映るだろうということを期待した。
「開発の皆さんにも価格はギリギリまで下げていただきました。どうかご了承いただけないでしょうか」
 匡吾は一言も話さない。それほど信頼してくれている、と思いたいところだ。
 眞妃はごくりと息を呑む。
 なにより上層部が頷いてくれないとこの先へ進めない。またゼロからスタートということもあり得るので緊張感で手に汗が滲んだ。
「……いいね。よくここまでデータを揃えてきたね」
「ありがとうございます」
「予算はちょっとオーバーだけど、まあいいか」
 上層部は数名で顔を合わせて、頷き合う。
「じゃあこれで進めてください」
「ありがとうございます!」
 眞妃は深く頭を下げた。
 これでようやく作りたい商品を作ることができる。商品のリリースはまだまだなのに、それだけで十分うれしかった。

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