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【9話】溺甘弁護士の真摯なプロポーズ~三年越しの約束を、もう一度~

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 昼食をとるレストランは予約しているらしく、その時間に合わせて映画のチケットも購入済みらしい。旭はいつもこの調子で、なにからなにまでやってくれる。
 任せきりで申し訳ないと付き合いたての頃に話をしたのだが、『四つ下に妹がいて、面倒をみるのは慣れている』となだめられた。
 彼の面倒見のよさはそこからきているのかと、妙に納得したのを覚えている。
 そういえば旭の妹の千沙都ちさとちゃん、もうすぐ結婚するんだよね。
 シスコンの気がある旭から、妹が彼の親友であるみなとさんと結婚すると小耳に挟んでもう半年になる。
 湊さんは同じ大学だったけれど、法学部の私たちと違って工学部だったのであまり関わりはなかった。
 一年前に湊さんはここ名古屋から東京に転勤になり、しばらくして千沙都ちゃんも彼を追いかけて東京へ引っ越した。
 東京からわざわざ千沙都ちゃんを迎えにきた湊さんを交えて四人で食事をしたのだが、ふたりとはその程度の付き合いしかない。
 それ以降旭から結婚についてなにも聞かされていないけれど、そろそろだろうか。
 三年前に旭と結婚していたら親族として挙式披露宴に呼ばれていたはず。自分が招いた結果なのに、こういう場面に直面するとやりきれない思いになる。
 待ち合わせ場所へ向かいながらざわつく気持ちを落ち着かせて、文乃ちゃんに言われた言葉を脳内で何度も思い返した。
 映画館で込み入った話はできないから、食事のタイミングで話せるといいのだけれど。
 駅に到着して大きな時計台のそばに立つ。緊張しながら周りに視線をさまよわせていると、ほどなくして人混みのなかに旭の姿を見つけた。
 仕事をしていたわりに、いつもよりカジュアルな出で立ちだ。
 ダークネイビーのジャケットとパンツに、インナーは白色のカットソーを合わせてラフに着こなしている。
 やっぱりブレザーにして正解だった。スーツ姿の彼と並んでも違和感がないように一応考えてきたのだ。
 私を視界に捉えた旭が真っ直ぐこちらに向かってきて、目の前で立ち止まると柔らかな笑みを見せた。
「お待たせ」
「私もさっき着いたところ。旭は仕事お疲れさま」
「ありがとう。莉奈もリハビリ疲れただろう」
 顔を横に振って、今日も今日とて私を気遣う旭に笑いかける。
「疲れてはないけど、お腹は空いたかな」
「俺も。ちょっと早いけどゆっくり向かうか」
 旭が私の手を取る。高い体温が手のひらから伝わって心臓がドキドキと鳴った。
「そのワンピース初めて見る」
 頭のてっぺんからつま先まで注視されて鼓動が加速する。
「最近買ったばかりで、今日初めて着たの」
「そうなんだ。可愛いね」
「……ありがとう」
 顔に熱が集まっていくのが分かり、気恥ずかしくなって視線をパッと逸らす。
 いつも思う。私って旭に対して初心すぎない? 初めての恋人ってわけでもないのに。絶対に、旭が素敵すぎる男性だからだよね……。
 出会った頃から変わらない旭からほのかに漂うシトラス系の香りも、いつも私の脳をくらくらさせる。
 年月が経てば経つほど、中毒症状のように旭は私にとってなくてはならない存在になっていく。
 本当に、好きだなあ。
 心のなかでこっそりつぶやいたら、反射的に繋いでいる手に力を込めていた。あっ、と思ったときには同じくらいの力で握り返される。
 少しだけ驚いて旭を眺めると、綺麗な顔は前を向いていた。涼しい横顔にまた心臓が大きく鼓動を打つ。
 こんな調子で話を切り出せるのだろうか。
 駅から十数分ほど歩き、着いた場所はひつまぶしの専門店だった。
 個室の座敷に入り、ふたりの上着をハンガーにかける。腰を下ろそうとして、珍しく旭がボーッとしていたので首を傾げた。

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