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【24話】溺甘弁護士の真摯なプロポーズ~三年越しの約束を、もう一度~

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 湊がなにを言いたいのかは分かっている。文乃ちゃんや加賀美さんの目に俺は紳士的な男として映っているだろうけれど、実際は違う。
 口調はガサツにならないように気をつけているし、弁護士らしく大人の余裕が出るように立ち振る舞っているだけだ。もちろん莉奈の前でも。
「それを言うなら、千沙都も湊の腑抜けっぷりに気づいていないんじゃないか?」
『……いや、それは気づいているはず』
「だろうな。莉奈も、俺の本質がこんなだっていうのは知ってるよ」
 出会った頃は莉奈に自分をよく見せようとは考えていなかったから、取り繕ってなんかいなかった。
 今でもたまにうっかり素が出るが、それに対して莉奈はなにも言わないどころか楽しそうにしているように見える。
 一見俺がリードして莉奈のすべてを包み込むような余裕を出しているつもりだが、実際は反対で、包容力は彼女の方があると薄々気づいている。
 一拍の間を置いて、俺と湊は揃って失笑した。
 八年間交際してようやく結婚する俺と、七年間妹に想いを寄せながら告白もせず、ぐずぐずしていた湊。類は友を呼ぶというが、実際そうなのかもしれない。
 まあ、俺は常に気持ちをストレートに伝えていたので湊とは立場が違うが。
 俺を介してコソコソと千沙都の動向を嗅ぎまわる湊の恋路を、一度だって協力しようとは思わなかった。
 だってそうだろう。好きなら全力でぶつかって、絶対に自分のものにするというくらいの男気を見せるべきだ。
 結果としてふたりがくっついたからよかったけれど、どうにもならなければ、両想いだと知りながら傍観していた無慈悲な奴だとふたりから恨まれていたかもしれない。
 もちろん、それでいいと考えていた。
 誰の力も借りず自分たちの手で掴んだ幸せなのだから、ふたりが交わるタイミングは間違いなくあのときだったのだろう。
 俺と莉奈が結婚するべき時期も三年前ではなく今なのだと納得している。物事には順序があるし、時間がもったいないとか、早ければいいというわけでもない。
 準備期間がたっぷりとあったおかげで結婚式も、新居への引っ越しも、莉奈に負担をかけずにできるし。
 湊の話をうわの空で聞き流し適当に相づちを打つ。
「これから電車に乗るから電話切るわ。千沙都にもお礼言っておいて」
『分かった。来るなら早めに教えろよ』
「了解」
 歩みを止めて、スマートフォンを耳から外し通話を終わらせた。
 莉奈は今頃家でくつろいでいるだろうか。できれば会っておめでとうと伝えたいけれど、さすがに今日は無理そうだ。
 マンションに着いてから電話をしたら、食事や入浴のタイミングに被るかもしれない。それなら今連絡をした方がいいか?
 スラックスのポケットに手を突っ込んで悩んでいると、握りしめていたスマートフォンが振動した。
 驚いて画面を見つめると、そこには莉奈の文字。
 浮き立つ心を静めて、一呼吸置いてから通話ボタンを押す。
『旭? まだ仕事中?』
 うかがうように声を潜める莉奈に、駅に着いたところだと説明をする。
『いつも遅くまでお疲れさま。あのね、実は今、旭のマンションにいるの』
「えっ」と、口のなかでつぶやく。
『勝手にごめんね』
「いや、いつでも来ていいって俺が合鍵を渡したんだし」
『旭の好きなハンバーグ作ったんだ。一緒に食べられそうかな?』
 ふわふわと、俺と同じく気持ちが弾んでいるのを隠しきれていない声音で莉奈は提案する。
「すぐ帰るよ」
『うん。待ってるね。あ、お祝いのケーキとか買わなくていいからね? それより旭に早く帰ってきてほしい』
 目の前にいたら力強く抱きしめていただろう。少し前に話し合って以来、莉奈は想いを素直に打ち明けるようになった。
 そうしてほしいと望んだのは俺なのに、甘えてくる莉奈が可愛すぎて困っている。
「分かった。寄り道せずに帰るよ」
『気をつけてね』
 通話が終わらないうちから足が勝手に動いていた。一分一秒でも早く帰って莉奈を抱きしめたい。
 まだ耳の奥に残る愛らしい声に浸りながら、我ながらカッコ悪いなと呆れながら家路を急いだ。
 でもきっと、こんな俺すらも莉奈は好きだと言ってくれるだろう。
 ここまで来るのに八年かかったが、長い時間をかけて築き上げた信頼関係はそう簡単には崩れたりしない。もちろん、これから先もずっと。
 
〈END〉

 

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