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【23話】溺甘弁護士の真摯なプロポーズ~三年越しの約束を、もう一度~

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番外編――旭side
 
 妹の千沙都と親友の湊の結婚式から一週間が過ぎた。
 つい先ほど莉奈から司法試験に合格したとの連絡を受け、自分のことのように興奮が冷めやらない。
 正午を過ぎても業務が片付かず、鳴っている腹を静めるために栄養補助食品を食べようとしたのだが、莉奈について考えていたらうっかり封を切らずにかぶりついたところを加賀美さんに見られ、冷たい視線を浴びせられた。
 レストランを予約した方がいいだろうか。だけど最近外食続きで肌が荒れてきたと莉奈が愚痴をこぼしていたし……。
 ああでもないこうでもないと、莉奈を想って頭を悩ます時間が好きなのだと気づいたのは付き合いたての頃だった。
 俺は別に尽くすタイプではない。だけど莉奈の笑顔を見たいという願望が、過剰な行動を加速させる。
 彼女がいなければ俺の人生はひどくつまらないものだっただろう。
 莉奈は千沙都に似ていて想いを口にしないタイプで、そんな彼女だからこそ無理をしていないかと気にかけているうちに自然と仲よくなった。
 一緒に過ごすうちに、口数は少ないけれど表情は豊かで、意外と感情は分かりやすく伝わる女の子だと知った。
 そういうところが可愛いし、表情がコロコロ変わる様は見ていて飽きない。
 芯が強く自分というものをしっかり持っているのだが、抜けているところが多々あり、次第に放っておけない存在に変わっていった。
 莉奈の一番の魅力はひたむきさにあり、弁護士になるという夢に向かって努力する姿はとても印象的だった。
 三回目の司法試験か……。あんなに頑張っていたんだから、合格をするのが遅すぎるくらいだ。
 どうしたら莉奈を労ってあげられるか、いろいろと考えていたら加賀美さんに大きな咳払いをされて、タイピングしていた手が止まっているのに気づく。
 これはいけないな、と小さく息をついて加賀美さんへ向き直った。
「無理を承知でお願いしたいんだけど、近々まとまった休みをもらえないかな」
 加賀美さんは嘘くさい笑顔を浮かべて、「すでに調整済みです」と言い放った。
 合否通知の電話を受けたとき彼女もそばにいたから、莉奈を祝うために時間を作るだろうという行動は先読みされたのだろう。
 彼女のような計算高い女性は敵に回したら怖いだろうなと、密かに苦い笑いをこぼした。
 莉奈について考えを巡らせたのはほんのひと時で、息をつく暇もなく業務にあたり、外がすっかり暗くなってから事務所をあとにした。
 仕事は好きなので、心地よい疲労感を感じながら駅に足を向ける。途中ふと思い立って湊に電話をかけた。
『もしもし? どうした?』
 以前は頻繁に飲みに誘っていたが、湊が東京に行ってからはそれもなくなり、俺から連絡をするのは久しぶりだ。
「莉奈が司法試験に受かった」
『おめでとう。すごいな』
「ありがとう。それで、莉奈とそっちに行こうかなって思ったんだけど」
『東京観光?』
「それは疲れるから、夢の国に。莉奈が行きたいって少し前に話していたんだ」
 文乃ちゃんの旅行がうらやましかったらしく、お土産にもらったマグカップを撫でながら『行きたいなあ』と漏らしていた姿を思い出す。
『早めにホテル予約しないと取れないぞ。あ、でも旭はスイートルームか。それならまあなんとかなるか?』
 端的に伝えても、いろいろと汲み取ってくれる頭のいい湊とのやり取りは楽だ。
「千沙都にどこのホテルが一番いいか聞いてほしい。意外とそういうの好きだろう」
『ちょっと待って』
 そう言って湊は一緒にいたらしい千沙都に事情を説明している。テレビや調理器具の鳴り響く音に耳を澄ませながら、一緒に暮らすのっていいなと改めて思った。
『お兄ちゃん? 口頭で話すのはややこしいからメールで送っておくね。あと東京に来るなら私たちとも会おうよ』
 電話口に出るなり、千沙都は矢継ぎ早に言う。
「時間があったら」
『またそういうこと言う……』
 俺の雑な物言いに、千沙都は呆れた様子でため息をついた。
「湊に代わって」
 もう少しで駅に着く。湊が電話口に出たのを確認して要件を手短に伝えた。
「新居でもどこでも行くよ。俺はどっちでもいいけど、莉奈がそういうのを気にするから」
『莉奈ちゃんいい子だよな。旭の本性に八年間気づいていないところも純粋っていうか』
「本性ってなんだよ」
『それだよ、それ』

 

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