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【22話】溺甘弁護士の真摯なプロポーズ~三年越しの約束を、もう一度~

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「今の莉奈に似合うように、少し大人っぽいデザインにしてもらった。ダイヤモンドは以前と同じものだよ」
「……ありがとう。うれしくて……どうしよう。うれしい以外に言葉が出てこない」
「莉奈は顔に感情がすべて書いてあるから、なにも言わなくても大丈夫」
 旭は柔らかな笑みを浮かべて立ち上がり、私の二の腕を掴んでベンチから引き上げた。
 互いの額がぶつかりそうなほどの距離で向き合い、旭が私の手を持って薬指に指輪をはめる。
「すごい。ピッタリ」
「あたり前。莉奈のことならなんでも知ってる」
 旭の手が腰に回り、グイッと引き寄せられてバランスを崩す。倒れ込むように厚い胸に顔がぶつかると、ぎゅうっと力強く抱きしめられた。
「あ、旭」
 こんな目立つところで抱き合うなんて、どんな親族だと思われやしないか。
 狼狽えている私をよそに、旭は頬擦りまでしてくる。
 しばらくして抱擁に満足した旭に身体を解放されても、真っ赤になった顔を上げられない。
 皆に見られていたかな……。
 唇をきつく結んで周りの様子をうかがおうとしたとき、ぱらぱらと拍手の音が聞こえて何事かと顔を上げた。
 視界に飛び込んできたのは、私たちに温かな眼差しを送りながら拍手をしている人だかり。
「え……」
 呆然としている私の背中に旭は手を添えた。
「ありがとうございます。お騒がせしてすみません」
 旭が軽く頭を下げたのに続いて私もぺこりとお辞儀をした。しかし頭の中は激しく混乱していて、脳みそがぐらぐらと揺れている。
「いいですね。あちこちで幸せな光景が見られて、今日は最高な日です」
 男性のひとりがそう言うと、隣の女性も「ねー! 素敵!」と愉快気に声を弾ませる。
 私たちを取り囲む人たちからは好意しか感じないというのに、身体は過剰に委縮してじわじわと冷や汗をかき始めた。心臓は太鼓を打ち鳴らしているかのように鼓動している。
 人々がばらけたのを見計らってクラッチバッグからハンカチを取り出し、額に浮かんだ汗を拭った。
「ごめん。莉奈にとっては酷な状況だったな」
 申し訳なさそうにする旭に慌てて首を横に振る。
「ううん。すっごく幸せだよ。ありがとう」
 あがり症だけれど、こういうのなら大歓迎だ。羞恥心より幸福感の方が上回るもの。
 本心を伝えても旭の眉は下がったまま。せっかくプロポーズをしてもらったのに、私のせいで悲しませているのが辛い。
 どうしたら気持ちを伝えられるのか。旭は私の表情を見ていれば分かると言っていたけれど、そんなわけがない。
 旭の手を握って、「ちょっとこっちに来て」とガーデンから抜け出した。
 披露宴会場のある建物の中はジャズピアノの音楽が流れていて、賑やかなガーデンとは違いひっそりしている。
 明らかに困惑している表情の旭を物陰まで引っ張っていき、辺りに人気がないのを確認してからガッチリとした両肩に手を置いて背伸びをする。
 チュッと触れるだけのキスをして、驚きで揺れる旭の瞳をジッと見つめた。
「うれしいし、幸せだし、旭のことが世界で一番好き。……ちゃんと伝わってる?」
 ドクンドクンと心臓が口から飛び出そうなほど鼓動していて、うまく息継ぎができていないのか手先がピリピリと痺れている。
 旭は瞬きを繰り返してから、「まいった」とため息をついて私の肩に頭を乗せた。
「莉奈から俺にキスしたの、これが初めてだよ」
「え、嘘」
「嘘じゃない。しかもこんなシチュエーションで……しばらく思い出してニヤけそう。本当にまいった」
「なんか……ごめん」
 肩にもたれかかる黒髪をそっと撫でると、突然スイッチが入ったように旭は頭を起こした。それからゆるゆると首を横に振る。
「それもダメだ」
 旭は私の手首を掴んで自分の口元に引き寄せると、指先にキスを落とした。
 伏し目になった顔が色っぽくて胸がぎゅうっと締めつけられる。ドキドキしすぎて呼吸の仕方が分からなくなり、さらに鼓動が速くなった。
「続きは帰ってからにして」
「えっと……今日、部屋に泊まっていいの?」
「最初から帰すつもりはなかったよ。今すぐにでも抱きたいくらいだから」
 ストレートな言葉を浴びせられて身体の奥が疼いた。大好きな人に求められて喜び以外の感情がない。
「お、お手柔らかにお願いします……」
 蚊の鳴くような声で懇願したら、旭は可愛らしい笑顔を浮かべてもう一度私を抱きしめた。
「莉奈、愛してる」
「私も……愛してる」
 移り変わる日々のなかで、変わるものもあれば変わらないであり続けるものもあるだろう。
 未来を自分たちの力で切り開いていけるのなら、夢を叶えた先に新しい夢を見つけて、旭と共に歩んでいきたい。
 旭の温もりに包まれながら、そう強く願った。
 

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