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【20話】溺甘弁護士の真摯なプロポーズ~三年越しの約束を、もう一度~

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「入籍の時期は未定だけど、来春に挙式披露宴を行うから、今のうちからスケジュール調整をしておいてほしいと皆に伝えたんだ。そしたら急に大人しくなったよ。法律事務所で働いているし、一般常識があるのなら法に触れるような行為は慎むだろう。だから文乃ちゃん、そんなに俺に牙を剥かないで」
「旭さんがちゃんとしていれば噛みついたりしません」
 ふたりはしばらく見つめ合ったあと同時に噴き出す。
「私より息がピッタリ……」
 テンポのいいやり取りに驚くと、文乃ちゃんが声を大きくした。
「違いますよ。これは息が合っているのではなく、性格が似ているので思考回路が読みやすいだけです」
「俺もそう思っていた」
 旭が興味深そうにうなずく。
「だから旭さんが莉奈さんを可愛がる気持ちが分かるし、私も莉奈さんが大好きなんですよ」
 唐突に好きと告げられて胸がキュンとする。
「あははっ、莉奈さん顔が真っ赤」
「え、うそ」
 文乃ちゃんに指摘されて両手で顔を隠す。
「いいなあ旭さん。こんな可愛い人を奥さんにできて」
「うらやましいだろう」
 旭が片方の口角を上げてニヤッと笑い、文乃ちゃんはそれを見ておかしそうに笑った。
「旭さん。ハネムーンは海外に行けるようにスケジュール調整してくださいね。では、お先に失礼します」
 文乃ちゃんは台風のように風を巻き起こして、何事もなかったかのように颯爽と去っていった。
 残された私たちは顔を見合わせると肩を揺らして笑い合う。
「文乃ちゃんには敵わないな」
「そうだね」
「俺たちも行こうか。やっと莉奈と過ごせるから、一分一秒でも長く一緒にいたい」
 恥ずかしげもなく旭が甘い台詞を囁くので、胸が早鐘を打って呼吸が浅くなり口数が少なくなる。
 それが照れている証拠だと知っている旭は、うれしそうに表情を緩めて私の手を取った。
 それから電車に乗って旭のマンションがある駅で降り、途中スーパーに寄って買い出しを済ませ、数ヶ月振りに彼の部屋に入った。
 短答式試験に合格したお祝いにと食事に誘われたのだが、素敵なレストランを訪れるよりふたりきりで過ごしたいと伝えた。
 いつも任せきりの私が意見したのが珍しいからか旭は驚いていたけれど、『そうしよう』と笑顔で了承してくれたので安堵した。
 だって、おうちに行きたいって、そういうことをしたいって言っているような気がして恥ずかしかったから。
 料理が上手な旭とふたりでキッチンに並んで夕食を作り、たわいもない話をしながら食事をして穏やかなひと時を過ごした。
 ダイニングテーブルからリビングのカウチソファへ移動してからは、膨れ上がったお腹をさすっている私を旭は楽しそうに眺めている。
「莉奈が俺の部屋にいるのっていいよな。癒される」
「それだけで癒しになるの?」
「そうだよ。俺にとって莉奈はそういう存在」
 これといって旭になにかしてあげられているわけではないので、そう言われてもピンとこない。
 とりあえずジッと見つめられているなかでお腹をさすり続けるのもどうかと思い、手をどけて髪を整えた。
 手持ち無沙汰だ。旭の部屋でどうやって過ごしていたかが久しぶりすぎて思い出せない。
 意識したら鼓動がどんどん速くなるのを制御できず、寄り添うように隣にいる旭に聞こえていないか心配で、意味もなく咳払いをした。
「そうだ。千沙都の結婚式が九月にあるんだけど、莉奈、参列できそう?」
「私も呼んでもらえるの?」
「未来の家族だからね」
「そうなんだ……」
 まさか招待してもらえるとは思っていなかったので、うれしくて口元が緩む。
「すごく楽しみ。ドレス、新しいもの買っちゃおうかな」
 ふふふ、と声を転がしていると、突然二の腕を掴まれて抱き寄せられた。
 なんの心の準備もしていなかったので、旭の胸のなかで身を小さくして息を潜める。
 ぎゅうっと私の身体を抱きしめる腕に力がこもり、それに応えるように旭の広い背中に両手を回して抱きしめ返した。
 旭が一度距離を取って私の顔を静かに見下ろしたので、おずおずと綺麗な顔を見つめる。
「莉奈、好きだよ」
 甘い声で囁かれて目の前がくらっとした。旭の揺れる瞳を見ていられなくなって咄嗟に顔を伏せる。
 しかしすぐに大きな手が私の顎を持ち上げて、ゆっくりと顔を近づける。流れに身を任せて目を瞑ると、唇に柔らかくて温かなものが触れた。
「寝室に移動していい?」
 ひたりと唇を合わせたまま囁く旭の言葉に「うん」と言おうとしたけれど、口からこぼれたのは空気を震わす吐息だけ。
 それでも旭はそれが返事だと判断したらしく、ソファから私を抱き上げた。

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