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【19話】溺甘弁護士の真摯なプロポーズ~三年越しの約束を、もう一度~

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真摯なプロポーズ

「はい! これ、莉奈さんと旭さんにお土産です!」
「事務所でお菓子をもらったのに、いいの?」
「あれは皆にですから。これはおふたりに」
 事務所での業務を終えて文乃ちゃんと駅に向かって歩きながら、先日文乃ちゃん夫妻が旅行へ出かけた際のお土産をありがたくいただいた。
「ありがとう。なんだろう」
 さすがに道端で包装を解くわけにはいかず、紙袋のなかを嬉々として覗き込む。
「お揃いのマグカップです。新居で使ってください」
「わあっ! うれしい!」
 文乃ちゃんには旭との話し合いの内容をすぐに伝えたので、私たちが結婚式場や新居を探している最中なのを把握済みだ。
「いいなあ。私も久しぶりに旅行に行きたくなってきた」
「新婚旅行があるじゃないですか。そういえば夢の国でも式が挙げられるみたいですよ。莉奈さん、どうですか?」
「どうって……」
 文乃ちゃんは二泊三日で関東地方にある夢の国を訪れていた。たしかにそこでの結婚式は憧れるけれど、仕事関係の人間も招待しなければいけないし、名古屋近郊に親戚や友人が多くいる私と旭が式を挙げられる場所ではない。
「もしかして私たちの結婚式を口実に、また夢の国に行けるって考えてない?」
「あ、バレました?」
 おどけた顔をするものだから、おかしくてクスクスと笑う。
「やっぱり新婚旅行は海外ですかね。こういうときしか堂々とお休み取れないですし」
「そうだねえ。でも旭の仕事の都合があるし難しいかな」
「ハネムーンは一生に一度なんですから、そこは無理をしてでも休みをもぎ取ってもらいましょう」
 力強くうなずいた文乃ちゃんは、「私から旭さんにお願いします」と、当人たちよりも結婚式やハネムーン旅行について考えてくれている。
 彼女の優しさにほっこりしながら、着々と未来へ向かって進んでいるのを自覚して不思議な気分になった。
 まだ現実感が湧かない理由として、五月中旬に四日間に渡り行われた司法試験が終わったばかりだからだ。
 六月に入ってすぐ短答式試験成績発表があった。これには無事に合格していて、あとは九月初旬にある正式な合格発表を待つのみ。
 司法試験は、短答式試験に合格した者の論文式試験の答案が採点され、短答式試験の得点と論文の得点の双方で総合評価を行い、最終合格の判定が行われる。
 試験を終えてすぐ、旭に最終合格の発表を待たずに結婚へ向けて準備を進めようと提案された。
 一瞬どうしようかと迷ったが、『絶対に受かっているんだろう?』という旭の言葉にうなずく以外の選択肢がなかった。
 そういう経緯があるので、まだ本腰を入れられずにいる。
 文乃ちゃんと会話を楽しんでいたらすぐに駅に到着した。
「旭さんが来るまで私も待っています」
「いいよいいよ。疲れているんだし、先に帰って」
「加賀美さんがいたら嫌じゃないですか?」
 鋭い質問をされて「うっ」と詰まる。
 旭と落ち合う約束をしているのだが、こういうとき決まって加賀美さんが登場するのだ。
「旭さんは婚約について職場に話していないんですかね?」
「うーん。どうだろう」
「聞いていないんですか? 加賀美さんに伝えたかどうかも?」
 うっ、と詰まると、文乃ちゃんは呆れたようにため息をつく。
「なおさら旭さんの到着を待ちます。私から話がたくさんありますから」
 しっかりしている彼女にはこの先も頭が上がらないだろうなと苦笑した。
 それから十分も経たないうちに、予想を裏切って旭はひとりで姿を現した。
 私たちの前まで歩いてきた旭に軽く手を上げる。
「お疲れさま」
「ふたりもお疲れさま。待たせて悪い」
 一ヶ月前に会ったときはジャケットを羽織っていたけれど、近頃暑くなってきたからか今日はワイシャツ姿だ。
 少しだけ皺が寄っているところが今日一日働いていたことを物語っていて、仕事ができるってカッコいいなあと見惚れた。
「旭さんひとりですか?」
「そうだけど、どうかした?」
 文乃ちゃんの質問に旭はキョトンとする。
「てっきり加賀美さんがくっついて来ると思っていたので」
 ハッキリものを言うところがすごいなと、文乃ちゃんに尊敬の眼差しを送る。
「それについては今日莉奈に話そうと思っていたところだった。加賀美さんの心配はもういらないよ」
「と言いますと? ようやく加賀美さんを突き放したという意味ですか?」
 文乃ちゃんが厳しい目つきで旭を見据えたので、見ているこっちがハラハラした。けれど旭は気にする様子もなく淡々と説明を続ける。

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