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【17話】溺甘弁護士の真摯なプロポーズ~三年越しの約束を、もう一度~

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「来月の試験頑張るから。だから、受かったら私と結婚してください」
 花火を打ち上げているかのように鼓動している胸に、たくさんの空気を取り込む。それでも身体は緊張と不安で小刻みに震えていて、すぐには落ち着かせられそうになかった。
 旭が一歩こちらに近づく。視界が覆われたかと思ったときには、きつく抱きしめられていた。
 触れているところからドクンドクンと心臓が高鳴っているのが伝わってきて、旭の動揺が手に取るように分かった。
 耳のすぐそばにある口から吐息がこぼれ落ち、不安心が急に襲ってきて目をギュッと瞑る。ここまできても返事を聞くのが怖い。
 息が詰まるような沈黙が流れ、耐えきれなくなって口を開こうとしたら。
「もちろんだよ。結婚しよう」
 少し掠れ気味の声で囁かれて、心臓が口から飛び出しそうなほど跳ねた。
 逞しい身体をそっと押し返して旭の顔を真正面から覗き込む。
「本当に?」
「本当もなにも、そういう約束だし、俺はずっと待っているんだけど?」
 旭が苦い笑いをこぼして私の頭を丁寧な所作で撫でる。
「そうなんだけど、三年前の話だし、旭の気が変わっていてもおかしくはないかなって……」
「俺ってそんなに信用ない?」
 不満げに首を傾げられて、慌てて「そうじゃないけど」と否定した。
「旭みたいな素敵な人が、私に固執する理由が見つからないし、自分に自信がないから、ずっと好きでいてもらえているのが、いまだに奇跡みたいだなあと思っていて……」
「そんなふうに考えていたのか。察してあげられなくてごめん。俺が不安にさせていたんだよな」
 そんなつもりはないのに、私は先ほどから旭が嫌な気持ちになるような発言ばかりしているようだ。
「違うの。これは私の問題で……」
 またもや否定をしかけたところで旭に遮られた。
「莉奈が強がりで、他人に弱音を吐くのが苦手な性格なのは分かってる。だからこそ俺がそこに気づいて、話を聞いてやらなければいけなかった」
 旭の思いやりには頭が上がらない。うれしいけれど私は……。
「旭の負担になりたくはないよ」
 これは付き合い始めた頃からずっと抱いていた想いだ。おこがましいかもしれないけれど、旭とは対等の立場でいたかった。
「恋人の不安を取り除く行為のどこが負担になるんだ? 支え合い、助け合うのは当然だろう」
 旭が言うと、そういうものかと思えるから不思議だ。
「莉奈はなんでもひとりで解決しようとするよな。たまに、莉奈には俺なんて必要ないんじゃないかと思ったりしたよ」
「なにそれ!? そんなわけない!」
 自分でも驚くくらいの大きな声を出した。我に返って周りを見渡す。
 待ち合わせ場所だった駅の構内から、女性を見送るためにロータリーに移動したので人通りは少ない。パッと見て、私たちに気を留めているような人は見当たらなかった。
 旭は私の考えなんてお見通しなのかクスクスと笑って言う。
「誰も俺たちを見ていないから大丈夫」
「……そっか」
 肩をすくめると、旭は安心させるように私の頬に手を添えて微笑んだ。
 その綺麗な顔を見つめながらどうしても消化できないことを尋ねる。
「さっき加賀美さんと一緒にいた?」
「ああ、加賀美さんも電車に乗ると言うから、駅まで一緒に来たよ。友人と会う約束があると言っていた」
「そうなんだ」
「俺が莉奈を抱きしめたあたりでいなくなったかな」
 あの状況で周囲に気を配る余裕があったとは、さすがとしか言いようがない。
 目を丸くしていると、旭がさらに驚きの言葉を発する。
「いろいろと企んでいるのかもしれないけど、俺たちの間に入ろうとするのは無謀だよね」
 穏やかな口調ながらも、迷惑そうな顔をして話す姿を唖然として見つめる。
 もしかして加賀美さんの言動の裏にある感情を知っていた? でも考えてみれば、何事にも敏感な旭が気づかないわけがない。

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