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【16話】溺甘弁護士の真摯なプロポーズ~三年越しの約束を、もう一度~

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 なにかあればすぐに旭や私の事務所に相談してほしいと伝えて、ふたりを乗せた車が去っていくのを見送った。
 ふたりきりになり、すぐに頭を下げる。
「ごめんね。迷惑かけた」
「怪我がなくてよかったよ」
 優しい声音と共に、頭の上にポンッと大きな手のひらが置かれる。
 うかがうようにして顔を上げると、どこか困ったように旭は微笑んでいる。
 てっきり叱られると思っていたので予想外の反応に困惑した。
「怒ってないの?」
「あの女性を守ろうとした行動は立派だよ。でも俺は莉奈が一番大事なんだ。頼むから無茶はしないでほしい」
「……うん。ごめんなさい」
 とても心配をかけたのだと気づき改めて深く反省する。
「俺たちの仕事は恨みを買うこともある。さっきの人間みたいに怯むタイプならいいが、その逆もある」
 旭の言う通りだ。
「莉奈は昔から正義感が強いからな。まあ、そういうところが俺は好きなんだけど」
 初めて聞く話に「えっ」と目を丸くした。
「どうせなら、莉奈があの男に食ってかかるところを最初から見たかった」
「ただ普通に話しかけただけだよ」
「怯まずに声をかけたんだろう? 声は掠れた? それとも震える程度だった?」
「え? えっと……震えていただろうけど、掠れてはいないと思う」
 先ほどの出来事を思い出しながら話をする。
「すごいじゃん。莉奈のコンプレックス、解消されてきたんじゃない?」
「そうなのかな……」
「心臓に毛が生えているような人間でなければ、さっきのような状況は誰だって緊張する。そんななか、莉奈はあの男性が法に触れると伝えたんだろう? そんなことができるのなら、弁護士になっても確実にやっていけるよ」
 他の誰でもない旭に言われて思わず泣きそうになった。
 私が極度のあがり症で悩んでいるのを、誰よりも知っている旭の言葉だからこそ胸に響き、ようやく報われた気がして込み上げるものがあった。
 リハビリの成果は出ているんだ。頑張ってきてよかった……。
 泣きたいのを我慢してはなをすすっていると、旭が私の手に指を絡ませる。
「俺、莉奈が泣いているところ一回しか見ていない」
「へ?」
「泣き顔を見せないように強がるところとか、俺は好きだなって思ってる。でも、我慢しないで俺の胸で泣いたらいいのにとも思う」
「さっきからどうしたの?」
 驚いて、溢れそうになっていた涙はすぐに引っ込んだ。
「莉奈が好きだと、改めて実感したって話だよ」
 目を細めて優しく微笑む顔をジッと見つめる。旭はついと顔を逸らして首のうしろを片手で押さえた。
 珍しく照れている。
 旭の前で泣いたのは、一昨年、司法試験に落ちたとき。あのときはとにかく悔しくてボロボロ涙をこぼして泣いたんだっけ。
 まさかそんなふうに思っていたなんて知らなかった。
「そろそろ移動しよう。大事な話があるんだろう? 近くのコインパーキングに車を停めてあるから車内で話そう」
 空気を変えるように旭は一歩踏み出したが、私は足にグッと力を込めてその場に留まった。
「どうした?」
 不思議そうに目を瞬かせている旭を見据えて、ハッキリとした口調で言い放つ。
「私、旭と結婚したい」
 旭はこれでもかというくらい目を見開いて呆然とした。
 いきなり、しかも道端で告白されたら誰だって驚くよね。
「すぐ伝えないと、またいろいろ考えて言えなくなりそうだから今言うね」
 旭に口を挟む余裕を与えずに続けて言葉を重ねた。
「今日ね、司法試験に受からなくても結婚してほしいって伝えるつもりでいたの。私は旭が好きだし、この先もずっと一緒にいたい。毎日声が聞きたいし、顔を見て安心したい。だから最近とくに、すぐにでも結婚したいと思うようになった」
 旭の喉仏が上下した。彼が抱いている緊張感は、驚き、喜び、困惑のどれだろうか。
「でも、約束したもんね。私が弁護士になったら結婚しようって。やっぱり夢も約束も叶えて旭と結婚した方が私は幸せだし、胸を張れる」
 ここでようやく言葉を切って一拍置く。旭は神妙な顔つきで私を静かに見つめていた。

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