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【10話】溺甘弁護士の真摯なプロポーズ~三年越しの約束を、もう一度~

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「どうかした?」
「そのワンピース、ノースリーブだったんだなって思って」
 視線が二の腕に注がれているのに気づき、隠すように肩をそっと撫でた。
「アメリカンスリーブっていう、肩を大胆に見せたノースリーブ型なの」
「流行りなの?」
「そうだよ」
 旭はまたもや黙り込み、ジッと私の肩のあたりを見つめている。
「似合ってない?」
 というか、旭の好きな服装ではないのかもしれない。
 これまで自分の好みに口出しをされたことは一度もないが、旭はどちらかというと清楚な服装を好む。
 ちょっと露出度が高かったかな。
 よかれと思って選んだデート服だったけれど、失敗だったのかもしれない。
 気を落としかけたとき、旭がおもむろに口を開いた。
「似合ってるよ」
 感情が読み取れない声音で告げられて、本心なのかお世辞なのか判断がつかず躊躇する。
「……本当に? 似合ってないなら、そう言ってもらえた方が助かるんだけど」
 無様な姿を晒すくらいなら指摘してもらえた方がよっぽどいい。
 そんな心持ちで訴えると、旭は困ったような微笑を浮かべた。
「すごく似合ってるよ。だからこそ心配だなあと思って」
「心配?」
「可愛い莉奈に、悪い虫がつきそうで心配」
 思ってもみない旭の反応に面食らう。
「今、面倒くさいなって思った?」
 押し黙っていたら、旭にとんでもないことを言われる。
「思ってないよ!」
 慌てて否定したら、旭は「ははっ」と声を上げて笑った。
 返答に困っていると「失礼します」という声がして座敷の襖が開く。
 水の入ったグラスとひつまぶしを持った店員さんが現れて、慌てて居住まいを正した。
 それからは食事を楽しみ、ひつまぶしと追加注文したデザートも堪能したけれど、肝心の話は食事を終えても切り出せなかった。
 だって、すごく幸せな時間だったから。
 重い話を持ち出して、せっかくの穏やかな空気を壊すのが嫌だった。
 旭は映画を楽しみにしているし、余計な雑念にとらわれず純粋に楽しんでもらいたい。だから帰り際に話そうと考え直す。
「のんびりしすぎたな」
 店を出てすぐ、旭は腕時計をかかげて時間を確認する。
「間に合わない? 私、走れるよ」
 見た目以上にがっしりしている二の腕に手を添えると、旭は私をチラッと見て微笑んだ。
「そこまで急がなくても大丈夫。本編前に予告が流れるだろうし」
「そう?」
 それならよかったと安堵した私の手を、旭は自身の腕からやんわりと外して手を繋ぎ直す。
「腕を組むより、こっちの方がいい」
 涼しい顔で言われて呼吸が止まりそうになった。この感情をどう言葉に表せばいいのか分からない。
 旭を前にすると体温の調節機能がおかしくなるらしい私は、全身を熱くさせながら静かにうなずいた。
 映画館へ到着して、わっ、と目を見張る。最後に映画館を利用したのは半年以上前で、そのときは旭と一緒に仕事帰りに寄ったので人もそこまで多くなかった。
 しかし今日は休日の昼下がり。ロビーは人でごった返していて、ドリンクやポップコーンを買い求める行列ができている。
 私たちも例にならって列に並び、ありふれた日常の時間を楽しんだ。なんとか予告編が始まる前に席につくと、すぐに館内の照明が落ちる。
 暗闇のなかで私と旭の間に置いたポップコーン容器に手を伸ばすと、同じように手を伸ばしていた旭の指を誤って掴んでしまった。
 慌てて手を退けようとしたら、旭はなにを思ったのか私の指の腹をそうっと撫でた。それも何度も。
 驚きから叫びたい気持ちを抑えて小さな声で訴える。
「なに?」
「指先が冷たい。寒い?」
 旭は手を掴んだまま私の耳元に顔を寄せて囁いた。吐息が耳たぶにかかって背筋がゾクッとする。
「……ちょっとだけ」
 そう答えると、旭は素早くジャケットを脱いで私の膝の上に置いた。

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