【29話】亡霊騎士と壁越しの愛を

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■第六章

 月見の祭りから二週間後、ガウスはようやく復調した身体で騎士団に向かった。
 本人はもう元気なつもりだったが、出迎えた部下たちは亡霊でも見るような顔をガウスに向けてくる。
「もう出てきて大丈夫なんですか?」
 駆け寄ってきたレイモンドに尋ねられ、ガウスは頷く。
「いつまでも寝てはいられない」
「でもひどい顔色ですよ」
「仮面をつけているのにどうしてわかる」
「そもそも仮面、つけてませんけど」
 指摘され、ガウスは慌てて頬に触れる。
 確かに、指先が触れるのはいつもの冷たい面ではなかった。
「ミシェルの事を考えながら支度していたから、つい忘れたようだ」
「隊長が仮面を忘れるなんてよっぽどですよ。だからみんな、素顔に驚くより先に心配してるんです」
 その上クマもひどいと言いながら、レイモンドはガウスを席に座らせる。
「寝てらっしゃいますか?」
「あまり……」
「せっかくの美丈夫が台無しですよ。っていうか、こんなイケメンなのになんで顔隠してたんですか」
 ガウスの気持ちを上向かせようとしてくれているのか、レイモンドが冗談めかして言う。いつものガウスなら真っ赤になって今すぐにでも仮面を取りに帰ろうとしていたところだけれど、今日の彼はそうする余裕はない。
「そんな事より仕事の話が聞きたい。メイソンの行方はわかったのか?」
「残念ながら、足取りはまったく……」
 ガウスの真剣な顔を見てレイモンドはすぐさまメイソンに関する情報を伝え始めたが、結果見えてきたのは何の進展もないという事実だけだった。
「ただ、ミシェル様と隊長にかけられた魔法についての子細はわかってきました。どうやらメイソンは、遠い東国の魔法技術を用いているようです」
 海を越えた先にある東の島にも、ヘイム国と同様に魔法使いを輩出する国『華国』があると言われている。華国では死を扱う魔法や呪具が多くあり、魔法自体の性質や使われる呪文もヘイム国の魔法とはかなり違うものだ。
 華国の魔法は複雑な上に、基本かけた本人にしか解けぬようになっているそうで、幼い頃ミシェルが魔力を奪われたときに使われたのも華国の魔法だった。
 だが魔法は未完成だった上に術者はミシェルから奪った魔力の量を制御しきれずその場で亡くなったと聞く。故に彼女の場合は、かけられた魔法が中途半端な呪いとして今も身体を蝕んでいるのだ。
「華国には魔力を他者に渡す術があるそうです。本来ならば特殊な器が必要で、受け渡せる量も少量らしいですが、器の代わりに『人』を使う事でより多くの魔力を奪えるとか」
 レイモンドの言葉と、以前レイスが話していた呪いの効果は合致する。
「その器に、ミシェルがされているという事か?」
「ええ。器にはいくつか条件があるそうですが、ミシェル様はそれにぴったりなんです」
 人も器も、持てる魔力には限りがある。だがミシェルはその量が尋常ではないらしい。そして呪いのせいで魔力を生み出す事が出来ない分、他者からの魔力を受け入れる容量も多い。
「ミシェル様を治療したレイス様や魔法使いたちの見立てでは、隊長の魔力を得て以来ミシェル様の疾患がだいぶ良くなっているようなんです。発作も起きていないところを見ると、得た魔力は内部に蓄積されているようですね」
「それは良い事……だよな?」
「今のところは。ただ良い方に作用しているのは隊長とミシェル様の魔力の相性が良いからだそうです。魔力の相性が悪いと、器にされた身体に負荷がかかり、廃人になる場合も多いとか……」
「ではまさか、メイソンはミシェルを殺すつもりで……」
「でしょうね。そして魔力を奪われた隊長を殺すか、あわよくば今度はあなたを器にしようとか考えていたのでは?」
 確かに、持てる魔力の量が多いのはガウスも同じだ。もしかしたら、元々メイソンはそれを狙っていたのかもしれない。
 彼はもしもの時、ガウスが結界に魔力を込める役目であるのを知っていた。
 だから結界をあえて破壊し、彼の魔力が空になったところで現れたのだろう。
「まあ、今のところ憶測ですけどね」
「……だが当たっているかもな。そもそも、いくらミシェルに素養があるとは言え、彼女を狙うのはリスクが高すぎると思っていたんだ」
「ですよね。最高の回復魔法が使えるレイス様が出張ってくるのは目に見えてますし」
「それでもミシェルに呪いをかける利点が、奴にあったんだろうか……」
 疑問はつきないが、どのみちメイソンや彼の仲間に直接問いたださねば真相はわからない。
「なんとしても、メイソンたちを捕らえねば」
 決意を新たにしていると、レイモンドがそっと苦笑する。
「隊長、真面目な顔するとこんな良い男なんですねぇ」
「茶化すな」
「茶化してないですよ。そういえば、あの祭り以来隊長に会いたいって女子が騎士団によく来るそうですよ」
「何故俺に」
「ミシェル様と素顔のまま出歩いたでしょ? それを見て『良い男!』ってみんな思ったみたいで」
 さっきも下に何人かいましたよと言われた瞬間、凜々しかったガウスの顔が情けなく崩れる。
「ぜ、絶対にここに入れるなよ」
「わかってますよ。隊長、事務員のおばちゃんでさえ怖がりますし」
「おじさんでも怖い」
 とにかく、見ず知らずの人には老若男女を問わず可能な限り近づきたくないガウスである。

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