【23話】亡霊騎士と壁越しの愛を

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 その気持ちが伝わったのか、ガウスは「少し話さないか」と言うと、人の少ない裏通りの茶店にミシェルを連れてきた。
 頼んだお茶を待ちながら通り沿いのテラス席に座ると、ガウスはそこで小さくため息をこぼす。
(やっぱり私、何か言葉を間違えてしまったのかも)
 難しい顔をするガウスに、ミシェルは胸を詰まらせる。
「ご、ごめんなさい……」
 そして彼女は、急いで謝罪の言葉を口にした。
「何故君が謝る」
「先ほどからため息が多くなったので、私が旦那様の気に触る事を言ってしまったのかと」
「ち、違う……そうではない! すまない、ただ……その……」
 言葉に詰まったガウスは、丁度運ばれてきた紅茶を一気に飲み干し呼吸を整える。
 そして彼はミシェルの手をぎゅっと握った。縋るような握り方に驚きながら彼を見れば、不安そうな眼差しを向けられる。
「俺は、君が言うような……太陽のような男ではない。でもそれを言えば、君に嫌われるかもしれないと思って……その……言葉が出てこなかった」
 誤解させてすまないと言いながら、ガウスは目を伏せる。
「……俺は、太陽とは真逆なんだ。親に捨てられて以来、俺は暗闇ばかり歩いてきた。そして生きるために人を遠ざけ続け、君に会うまでは人の温もりさえ知らなかった」
 苦しげな声をこぼし、ガウスは項垂れる。
 ガウスの身の上については多少知っていたミシェルだが、語られた言葉に改めて彼が辛い過去と生い立ちを背負っている事を痛感する。
「俺を太陽だなんて思ってくれる君を、どうやって大事にしたら良いかもよくわからない……」
「旦那様は、十分すぎるくらい私を大事にしてくださっています」
「でも、全然足りない気がする。それにさっきも言葉が足りず、君を誤解させて苦しめてしまった」
「些細な誤解なんて、誰にでもある事です。それに言葉が足りないのも、温もりに疎いのも私だって同じです」
 でも……と、ミシェルはガウスの頬にそっと触れる。
 仮面に覆われていない頬はとても温かくて、こうして触れているだけでミシェルの心はいつだって幸せな気持ちになる。
「人の温もりを、誰かの側で過ごす幸せを旦那様のお陰で知る事が出来ました。初めて同士だから失敗する事も多いと思いますが、もし叶うならこれからも色んな事を旦那様の側で知っていきたいです」
 他の誰でもなく、人生を共にするなら彼がいい。
 かつてないほど強い気持ちを言葉と視線に込めれば、ガウスの表情がようやくほぐれ始める。
「俺で、本当に良いのか?」
「旦那様が許してくださるのなら」
「俺だって君が良い。君となら、どんな事でも出来る気がする」
 今度はガウスがミシェルの頬に触れ、優しく撫でる。ガウスの手は無骨で、傷も多く、剣を握るために鍛えられたため決して柔らかくはない。
 でも不思議と彼に触れられると心地良いと感じる。同時に、この手がずっと孤独の中をさまよってきたのなら、今後は自分が温めてあげたいと思ってしまう。
「なら、これからもずっと一緒にいてください」
 添えられた手を握ると、ガウスの顔に優しい笑みが浮かぶ。
 その笑みはあまりに素敵で、だからこそいつまで自分が独占出来るのだろうかと不安は芽生えるが、今は気づかないふりをした。
 しかしミシェルは目を背けても、聡いガウスは彼女の不安を察してしまうかもしれない。そう思ったミシェルは、「そうだ!」と頑張って明るい声を出す。
「実は私、さっそく旦那様とやりたい事があるんです」
 不安を悟られる前にと話題を変えれば、ガウスは笑顔で頷いてくれる。
「君が望む事なら、何でも叶えよう」
「でも、旦那様にはちょっと敷居が高いかもしれないですが……」
「君のためなら頑張る」
「でしたら、私とあとで一曲踊ってくださいますか?」
 ミシェルの言葉に、ガウスはわかりやすく固まった。
「お、踊るというのは……あの、音楽に乗せて身体を揺らす……あれか?」
「はい。星見の祭りでは色々なところに楽団がいてみんなが踊るでしょう? あれを一度やってみたいです」
 でも相手がいなくて、ミシェルは踊った事がなかった。
 それはガウスも同じらしく、わかりやすく緊張している。予想通りの反応に、ミシェルは思わずおかしくなる。
「とはいっても、人前は敷居が高いと思うので今日でなくてもかまいません。ただその、誰かと音楽に合わせて踊るのが夢だったので、出来るなら旦那様に夢を叶えていただきたいなと」
「踊りの経験はないが、それでもいいか?」
「もちろんです。何だったらお屋敷で、二人っきりでもかまいません」
 むしろミシェルもそのほうがありがたいと言うと、ガウスはそこで考え込む。
「……なら、二人で踊りためのレコードを買って帰らないか? 祭りにあわせ、行商人も多く来ているだろう」
「それ、とっても素敵ですね」
「なら行こう。そして今年は家で練習して、来年は祭りで踊れるよう二人で度胸をつけよう」
「来年も、連れてきてくださるのですか?」
「当たり前だろう。この先毎年、二人で祭りに来よう」
 二人の未来を当たり前だと言ってくれるガウスに、ミシェルの胸が熱くなる。

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