【22話】亡霊騎士と壁越しの愛を

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「でも、私はいつもつまらない顔ですし……」
「確かに人より感情は出ないが、それでも笑ったり喜んでいるのはわかる」
「本当に?」
「こう見えても騎士をしているから観察眼は鋭い。そして君の顔を見て、ささやかな感情を見つけるのは楽しい」
 ガウスの言葉に胸が跳ねると「今喜んだだろう?」と当てられる。
 それもまた嬉しくてガウスのコートをぎゅっと掴むと、もう一度口づけをされた。
「君は綺麗だ。綺麗だからこそ、家から出したくないとちょっと思ってしまった。その美しさは俺が独占したい」
 いつになく饒舌なガウスは、縋るようにぎゅっと抱きついてくる。
 腕の中に捕らわれるとドキドキしたけれど、同じ気持ちだったミシェルはそこで小さく頷く。
「私も、旦那様があまりに素敵なので独占したいと思ってしまいました」
「俺は素敵ではない」
「素敵ですよ。きっと外に出れば、それが証明されます」
 だからちょっと寂しいと思ってしまったのは、皆が彼の魅力に気づけば自分より素敵な女性が現れるかもしれないと思ったからだ。
 自分を褒めてくれたガウスの言葉が嘘だとは思わない。でも自分は、日の光を浴びられないし身体も弱い。
 壁を隔てた関係ならばともかく、もしもガウスがこの先普通の家庭を築き子供を持ちたいと思っても、叶えられない可能性の方が高いのだ。
(もし旦那様が普通を求めたら離れるべきよね……)
 そう思う一方、彼とこうしているとミシェルはもう昔には戻れないと気づいてしまう。
 だれかとふれあい、顔を合わせ、言葉を交わすのは楽しいとミシェルもガウスのお陰で知る事が出来た。そしてきっと、それはガウスも同じだ。仮面を取り、鎧を脱ぎ捨てたのがその証だろう。
「いっそ、家で二人で過ごすか?」
 ガウスはそんな事を言うし、ミシェルも本当は頷きたい。素敵な夫の姿を独占したい。
 けれどそうすべきではないと思い、彼女は首を横に振った。
「せっかくだからデートに行きましょう」
 ガウスの口についた紅を拭い、ミシェルはそっと彼の腕から逃れた。
 そして街について早々、ミシェルの懸念が的中する事になる。
「やはり、俺の格好はおかしいのでは? みんながこちらを見ているぞ……?」
 二人で通りを歩いていると、周囲の視線がガウスに集まる。ミシェルの方にも注目は集まっているが、「吸血姫が外にいる」という失礼なものの方が多い。
 だがガウスに向けられているのは、好奇心と甘い眼差しだ。
「あの素敵な殿方はだれかしら」
「剣を携えていらっしゃるけど、騎士かしら」
 そんな囁き声さえ聞こえてくるほどだ。
 今はまだ彼がガウスだと皆気づいていないが、ミシェルとガウスの結婚は秘密ではないので明日にはこの男前がガウスだと知れ渡るだろう。
(そうなったら、旦那様にアプローチしてくる女性も増えるかも……)
 それを苦しく思いつつ、周囲の注目を浴びて挙動不審な夫の手を優しく掴む。
「みんなが見ているのは、旦那様が素敵だからです」
「いや、気持ち悪いから見ているに違いない」
「気持ち悪いところなんて全然ありません。だからほら、あちらにある星屑の飾りを見に行きましょう」
 街の広場には、星を象った飾りが沢山吊されている。濃く満ちた魔力によって輝く飾りはとても綺麗なのだ。
 また星屑の飾りをモチーフにした料理や装飾品などを売る店もあり、どの広場も通りも賑やかだ。
 根っからの引きこもりであるミシェルは、普段なら人の多さに気後れしてしまう。
 いつもなら十分も歩けば城に帰りたくなってしまうが、今日は自分以上に挙動不審なガウスがいるせいか落ち着いて歩く事が出来た。
 自分がしっかりせねばと思うと同時に、こうして歩くのは最後かもしれないと思うと一秒一秒が尊く思えてくる。
「沼も良いが、こういう場所も……悪くはないな……」
 そしてガウスも段々と慣れてきたのか、ミシェルより半歩遅れていた身体が段々と彼女の隣に近づいていた。
「ええ、とても素敵です」
 空に浮かぶ月は不気味だけれど、夜風にたなびく星の飾りは美しく人々は皆賑やかに祭りを楽しんでいる。
「君も、この祭りが好きか?」
「はい。他の祭りは人の多さにただただ臆してしまうけど、月見の祭りは大丈夫なんです。明るさと不気味さ、その二つが混じった祭りだからこそ、今日だけはここにいても良いんだって小さな頃から思えて」
 日の光の下を歩けず、人との関わり方もわからず、吸血姫と呼ばれて不気味がられる自分でも、この祭りでなら馴染む事が出来る。そんな気持ちがあったから、この祭りのときだけは外に出る事が多かった。
「気持ちは、わかる気がする」
 飾りの向こうに浮かぶ不気味な月を見上げながら、ガウスがミシェルと繋いだ手に力を込める。
「……俺も、日の光よりも闇の方が似合うとよく言われる。実際、その通りだと思うしな」
 そう告げる表情に僅かな影が見え、ミシェルは思わずガウスの手をぎゅっと握る。
「でも私にとっては、旦那様は太陽みたいな人ですよ」
「この俺が?」
「だってとても温かくて、心地良いです」
「そんな事を言われたのは、初めてだ」
 嬉しいような、でもどこか複雑な顔をするガウスを見て、ミシェルは言葉を間違えただろうかと悩む。

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