【21話】亡霊騎士と壁越しの愛を

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「で、デートというのは……あの……あれ……ですか?」
「多分君が考えている、デートだ……」
「わ、私と?」
「嫌……だろうか?」
 もちろん嫌な訳がない。
 ただミシェルが驚いた顔は不満げに見える事も多いので、彼女は誤解をされぬように渾身の力で首を横に振った。
「い、行きたいです……! ……ただあの、私昼間は外に……」
「もちろん夜に行こう。遠出が嫌なら、まずは近くでもいい。例えば……あれだ……この辺の沼地は、夜になると霧が深くて誰にも会わないから良い場所だぞ!」
 畳みかけるように言ってから、ガウスはそこで何故か「しまった」という顔をする。
 だがミシェルには、とても魅力的な申し出に思えた。
「霧の沼地、凄く素敵です!」
「ほ、本当か……?」
「はい! 私怪奇小説が好きなので不気味な場所を歩くのが夢だったんですけど、そういう場所は危ないからってずっと許してもらえなくて」
「……そうか、それは良かった! いや、本当は来週の祭りに誘おうかと思っていたんだが、間違えてむしろ良かった」
「お祭りって、もしかして星見のお祭りですか?」
 ミシェルの言葉に、ガウスが大きく頷く。
 星見の祭りとは、年に一度秋の月に開かれる祭りだ。赤い月が昇り、一年の中で一番魔力が濃くなる夜が訪れる。それを祝い、ヘイムを中心に世界各地で祭りが行われるのだ。
「星見の祭りのときだけは君も出かけると言うから、それに誘おうと思ったんだ」
「旦那様のご都合がよろしいなら、お祭りも是非行きたいです!」
「ああ、もちろんだ」
「あっ、でも……二回もデートだなんて贅沢すぎるでしょうか」
「贅沢なものか。俺は毎日だってしたい!」
 ガウスの主張に、ミシェルの顔がほんの僅かだがほころんだ。
「私も、毎日したいです」
「なら、せっかくだし沼地には今から行くか。そろそろ日も落ちる」
「よろしいのですか?」
「俺たちはデート初心者だし、祭りの前に予行練習も必要だろう」
「確かに最近外に出ていなかったし、私は人混みが苦手なので、いきなりお祭りに行ったら粗相をしそうです」
「安心しろ、俺も絶対何か失敗する自信がある」
 キリッとした顔でガウスが言うと、ミシェルはほっとする。
「とりあえず、まずはその……手を繋いで歩く練習をしないか?」
「そうですね。そうしましょう」
 時々抱き合って、キスも毎日しているけれど、手を繋ぐのは何だかこそばゆい。
 けれど二人はその夜、恋人らしい甘い雰囲気を醸し出しながら夜の沼地を歩く事に成功した。
 翌日「何で沼地なんですか!」と屋敷の使用人たちやレイモンドにはツッコまれたが、祭りまでの毎晩、二人は沼地でデートの練習を繰り返した。
 とはいえ手を繋いで歩く以上の事は出来なかったが、引きこもりで人見知りを拗らせた二人にとっては大きな進歩である。

 そして一週間後、待ちに待った祭りの夜がやってきた。
 この日のためにとダグラスとジェーンが用意した特注のドレスに身を包んだミシェルは、同じく外出用の服に着替えているガウスを玄関で待っていた。
(でも大丈夫なのかしら……先ほどから……何度も爆発音が聞こえるけれど……)
 ガウスはまさか自分の服まで用意されているとは思っていなかったようで、「いやだ」「おめかしなんて無理だ」と彼は叫んでいた。
 それでも「奥様のためです!」と使用人全員から言われれば渋々部屋に入っていったが、この分だとやはり不本意なのだろう。
 ダグラスの話では、外に出るときはいつも仕事でなくても黒い甲冑と仮面姿らしい。
(そのままでもいいって、旦那様に言ってこようかしら)
 ミシェルはガウスと出かけられればそれだけで嬉しいのだ。だから別にめかし込む必要などないと言いに行こうと決めたとき、二階へと続く階段からガウスが現れた。
「……ま……待たせた……」
 いつも以上に強張った声はガウスのものだったが、ミシェルは思わず息を呑む。現れた彼は、いつもとはまるで別人だった。
 無駄に長くてボサボサだった銀髪はほどほどの長さに切られ、美しく整えられている。服は仕立ての良い物で統一され、彼の長い脚と立派な体躯をほどよく際立たせていた。羽織ったフロックコートや装飾品なども上質で、どれも彼によく似合っている。
「とっても素敵……」
 思わず声を上げると、ガウスが真っ赤な顔で階段を駆け下りてくる。
「……その台詞は、先に言いたかった」
「私は素敵じゃないです。この顔のせいで、ドレスも台無しですし」
 仕立ててもらったドレスやアクセサリーは完璧でも、自分のつまらなそうな顔ではきっと華やかさにも欠けている。
 でもガウスは、仮面などつける必要のない美丈夫だ。
(これで外を歩いたら、女性が放っておかなそう……)
 チクリと痛んだ胸を押さえると、そこでガウスが突然ミシェルの顎に指を這わせる。
「君は勘違いしている。君は……俺の妻は……世界一綺麗だ」
 うつむいた顔を上へと向けさせられ、そのまま優しくキスを施される。

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