【18話】亡霊騎士と壁越しの愛を

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 顔を合わせて言葉を交わすようになってから、時折ガウスはミシェルに魔力を分け与えてくれる。
 ふれあいを伴うそれは恥ずかしいけれど、お陰でガウスと距離が近づくきっかけになった。
(それにまた、キス……してくれるかも……)
 口から魔力を流し込む行為は、手での受け渡しよりずっと多くの魔力を渡せる。故に発作の兆候が出るたび、ガウスは口づけで魔力をくれるようになった。
 最初は恥ずかしかったけれど、いつしかミシェルは彼のキスを待ち望むようになっていた。
「後で部屋においで」
 だからガウスにそう言って微笑まれると、ミシェルははしたない期待につい胸を高鳴らせてしまう。
 その後二人で夕食をとってから、ミシェルはガウスの部屋へとおもむいた。
 かつて手紙を差し入れていた扉を開け、ミシェルは中へと入る。
 部屋ではピアノの旋律が美しい曲がかかっており、レコードの側にはガウスが立っている。
 彼はミシェルに気づくと、優しい笑顔を浮かべてくれた。そして彼女に近づき、暖炉の前に置かれた安楽椅子に誘う。
「具合は、平気か?」
「はい、大丈夫です」
 不調を探るように頬を撫でるガウスの手に、ミシェルは自然と顔をすり寄せる。
 それを見て、ガウスが小さく笑った。
「なんだか、不思議だな」
「不思議?」
「最初は会話さえままならなかったのに、近頃は君がこんなにも近い」
「不快ではないですか?」
「そんな訳ないだろう」
 くすぐるように頬を撫でる手つきに、ミシェルはほっとする。
「私も、近くて嬉しいです」
 告げるのは恥ずかしかったけれど、感情が顔に出ないミシェルは言葉で言わなければ自分の気持ちを伝えられない。
 そのせいで、ミシェルは今まで色んな人に誤解をされてきた。友達になれるようにと両親が連れてきた子供たちには全員嫌われてしまったし、使用人たちに遠巻きにされ、ジェーンのように理解のある者以外はみんな離れてしまった。
(でもガウス様には、嫌われたくない……)
 せっかく近づけたのに、離れたくない。
 そんな気持ちが芽生え、ミシェルは顔を真っ赤にしながら「凄く……嬉しいです……」と付け加える。
 その途端「うぐぅ」と妙なうなり声を上げながら、ガウスが手で顔を覆う。
 おかしな事を言ってしまっただろうかとミシェルが戸惑っていると、ガウスは「ああ」とか「うぅ」と悶えたのち、小声で謝罪の言葉を口にした。
「一緒にいて嬉しいと言われたのは初めてで……ちょっと感動しすぎてしまった」
 気分を害した訳ではないとわかり、ミシェルは胸をなで下ろす。
「それに俺も……その……一緒にいるのは嬉しい」
「本当ですか?」
「本当だ。……叶うなら、一日中側にいたいと……そう思う」
「わ、私もです」
 ガウスの言葉が嬉しくて、ミシェルの声が弾む。途端にまたガウスが妙なうなり声を上げたが、きっとこれは彼なりの喜び方なのだろうとミシェルは好意的に解釈した。
「私も一緒にいたいと言われる事はあまりないので、本当に嬉しいです」
「なら……ずっと、俺の側にいればいい」
「ガウス様が許してくださるなら、是非」
 ミシェルの言葉に、ガウスがそっとミシェルの唇に触れる。
「……そういえば、魔力を与えると……約束したな」
「……そ、そうでしたね」
「か、構わないか?」
 構わないどころか期待していたくらいだが、もちろんそれは口に出来ない。代わりにそっと目を閉じると、柔らかなものが唇へと触れた。
 ミシェルの緊張をほぐすように、優しく唇を啄まれると身体から力が抜けてしまう。
 それをガウスの逞しい腕が抱き支え、気がつけば身体の距離も近づいていく。
「ン……ぅ、ん……」
 抱きしめられながら、口づけは優しく深まっていく。それに伴いミシェルの口からは甘い声がこぼれ、恥ずかしさに彼女は僅かに身体を引いた。
「逃げるな、まだ魔力を注げていない……」
 たしなめるような言葉と共に、顎をつかまれ更に深く口づけられる。
(ガウス様のキス……すごい……)
 口を合わせるだけで精一杯なミシェルとは違い、ガウスの舌使いは巧みだった。舌をからめながら魔力を注ぎ込まれると、ミシェルはされるがままになるほかない。
 あまりの心地よさにうっとりとガウスに身を預けていると、身体の奥がじわりと熱を持つ。
(これも魔力の……せい……?)
 何かを訴えるように身体の奥から甘い痺れがこみ上げて、キスに合わせてミシェルの腰が僅かに震えた。初めての反応に驚きそこでまた身体を引こうとするが、ガウスの腕に捕らえられたせいで逃げる事は叶わない。
「……ぁ、……だんな……さま……」
 何かがおかしいと訴えたくて、キスの合間に呼びかけるが、何故だかそこで口づけが更に激しくなる。
「……ンッ、……んぅ」
 舌っ足らずな声ごとガウスの唇に貪られ、魔力の溶けた唾液がミシェルの口の中で淫らに絡まる。
 すると甘い痺れが増し、ミシェルはついに耐えきれなくなった。
「……やぁ」
 か細い声をこぼせば、そこでガウスが弾かれるように身を引いた。
「す、すまない……」
 顔面蒼白になっている彼を見て、ミシェルは拒んでしまった事を後悔する。
「ご、ごめん……なさい」
「謝るのは俺だ……。つい口づけに夢中になって、その……」
 その言葉に、ミシェルは少しほっとする。

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