【10話】亡霊騎士と壁越しの愛を

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 騎士団での生活が長かった事もあり、レイスはこの手の空気に理解がありすぎる。
「少し話をしようではないか、我が息子よ」
「これから朝のミーティングなのですが」
「そんな事より親子の語らいをしよう」
 馬鹿を言うなと呆れる一方で、全く引かないレイスに僅かな違和感を覚える。
 あえて空気を読まず、傍若無人な振る舞いをする事も多いが、さすがに仕事の邪魔はしない男である。
「ミーティングの後でなら構いませんが……」
「なら五分で終わらせろ。どうせ今は、まだ大きな仕事はないのだろう」
 せかす言葉に、レイモンドがガウスをチラリと見つめる。どうやらレイモンドも何かを察したらしい。
「どうせ隊長はいたってろくに発言もしないんですから、親子の絆を深めてきてください」
 茶化すような言葉に、周りの部下たちは面白がって「どうぞ行ってください」と笑顔を浮かべる。
 それに呆れたふりをしつつ、ガウスは渋々レイスと共に部屋を出た。
 そのまま上の階にある作戦会議室に入ると、レイスが小さく指を鳴らす。それに伴い部屋に防音の魔法がかけられたのを感じ、ガウスは仮面の下で表情を厳しくした。
「嘘をついてまで私を呼び出したという事は、妻の事が用件ではありませんね?」
「それもあるよ。実際、耳に入れたいのはミシェルにも関する事だ」
 飄々とした振る舞いはそのままだが、「座れ」と告げる声はいつもより少し低い。それはレイスが何か重要な案件を告げるときに出す声で、ガウスは嫌な予感を覚えながらレイスの対面に座した。
「隣国の間者から、少々きな臭い噂を仕入れた」
「……きな臭い?」
「『メイソン』という名前の魔法使いが、人から魔力を剥ぎ取る魔導具の開発に成功したという噂が、隣国で流れているらしい」
 レイスの言葉に、ガウスが思わず顔をしかめた。王が口にした名前に嫌な記憶を刺激されたからだ。
「……メイソンとは、あのメイソンでしょうか?」
「君の友人……いや元友人の、メイソンに十中八九違いない」
 断言に、ガウスは自然と拳を握る。
 メイソン=ヘイダール――彼は二年前まで、ガウスと共にヘイムの魔法騎士団に所属していた元騎士だ。
 ガウス同様幼い頃に外国に売られた身の上で、彼もまたレイスに連れられて故郷に戻ってきた。似た境遇から二人は意気投合し、その後揃って隠密機動部隊に配属され頭角を現した。
 ガウスと違って人当たりも良く、穏やかで笑顔を絶やさぬメイソンは人望も厚かった。故に最初は彼が隠密機動部隊の隊長となる予定だったのだ。
 だがそうならなかったのは、あろうことか彼が捕縛すべき人身売買の組織と繋がっていたからである。
 救うべき国民を外国に売り飛ばし、騎士団を攪乱させる代わりに彼は多額の金を受け取っていたのだ。
 メイソンを信じ、友として慕っていたガウスは憤ったが彼は最後まで笑顔を崩さずこう言ったのだ。
『ヘイムの人間は金になる。それを誰よりもよく知る俺が、商売のチャンスを見逃す訳がないだろう』
 両親に売られて以来、メイソンは奴隷同然に扱われてきた。
 魔導具もなしに魔法を使える魔法使いは貴重で、なおかつ無抵抗の子供――中でもガウスやメイソンのような破壊の魔法を使う子供は、裏社会では重宝される。
 メイソンは非情と名高いマフィアに売られ、善悪の感覚を完全に失ってしまうほどひどい目に遭ってきたのだ。
 そしてその経験はヘイムでの平和な生活の中でも消えず、むしろぬるま湯のような日々は彼にとって苦痛でしかなかったのだろう。
 かつての主人と連絡を取り、彼は騎士でありながらマフィアに通じて悪事を働いていたのだ。
 それを見抜いたのはガウスで、彼はメイソンの計画を潰し彼と手を組むマフィアを壊滅させたが、メイソン自身は取り逃してしまった。
 もし生きているなら今度こそ足を洗って欲しいと思っていた。だが心のどこかでは、最後まで悪びれなかった彼が改心する事は二度とないという予感を抱いていた。
(いずれ、奴はまた現れる気がしていたが……)
 ついにそのときが来たのだろう。その上もしもレイスが言うように、魔力を奪う魔導具を開発したのだとしたら大事である。
「……また、妻のような目に遭う者が現れると陛下はお考えなのですね」
 ガウスが尋ねると、レイスは悲しげな顔で頷いた。
「人体から無理矢理奪った魔力は消え失せ、保存出来ない。その法則は、絶対に覆せないと思っていたのだが……」

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