• HOME
  • 毎日無料
  • 【18話】美貌の教授は一途な司書に恋を甘く教える

【18話】美貌の教授は一途な司書に恋を甘く教える

作品詳細

「嫁入り前のお嬢さんをこんな騒ぎに巻き込んでしまって……お詫びのしようもないけれど、とにかくご両親と会って話をしたい」
「先生がそう言って下さるのは嬉しいですけど、それより今は理事長や学生たちの対応をするべきじゃないですか」
「それについてはもういい。首謀者も理由も分かっているからね」
 端正な顔立ちには不似合いなほどの強い眼差し。何かを決心したように私を見つめる先生に、訳もなく胸が騒ぐ。
「先生、さっき学長がおっしゃっていた片山ありすって子、もしかして……」
「ああ。君が研究室で見た、僕の膝に無理やり乗りかかってきた学生だ。容姿にも知性にも家柄にも恵まれた、世界は自分の思い通りになるって思い込んでいる子だよ。ついでにいうとうちの理事長の孫娘だ」
「え!?」
 この大学の理事長は、日本を代表する製薬会社の会長だ。元々この大学を創立した創始者一族であり、日本の経済界でも、とても大きな力を持っていると言われている。
 大学の人事権も掌握しているという人物の孫娘が、何故こんなことを?
「彼女は僕を好きだと思い込んでいて、ありとあらゆる手を使って僕を誘惑してきていたんだ。もちろん相手になんてしない。僕が愛しているのは君だし、それ以前に力で愛を得ようなんて考えは間違っている。若さは傲慢なものだから今まで大目に見てきたが、今回ばかりは容認することはできない。君を巻き込んだことは絶対に許せないし、だから彼女にはもう僕のゼミを辞めてもらおうと思っている」
「でもそんなことをしたら理事長が……」
「僕は何も怖くない。怖いのは野々花を失うことと、野々花が誰かに傷つけられることだ。だから君は何も心配しなくていい」
 そうはっきり告げると、桂川先生の手が優しく頬に触れる。
「今日、仕事が終わったら研究室に来てくれ。僕の車で一緒に君の家に帰ろう。……それでいいね?」
 とても優しいのにどこか支配的な眼差しは、一瞬で全てを忘れさせてしまうほど私の心を惑わせる。
「はい」
「いい子だ」
 そう言うと先生は私を引き寄せ、そっと唇を重ねる。
 学内での不意打ちのキスは想像以上に甘くて……瞬きすらできない。
「じゃあ後で。約束だ」
 とろけるような甘い笑顔を残し、桂川先生は研究室へと戻っていった。

 先生が去った踊り場で、私はしばらく身動きできずに立ち尽くしていた。
 あまりにも色々なことが一度に起こり、うまく頭がついていかない。
 画像のことだって実際のところよく分からない。学長の話だと理事長の孫である学生がやったということだけれど、いったいいつの間に写真を撮られたんだろう?
 先生は心配しなくていいと言っていたけれど、先生の立場は本当に大丈夫なの?
 それに、先生が両親に挨拶にくるという現実も受け止めきれずにいる。
 二十五歳の今まで男の人と付き合ったことなんてないから、もちろん彼氏を家に連れてきたことなんて一度もない。
 初めて両親に紹介する人が二十も年上、しかも大学時代の恩師だと知ったら、きっとふたりともひっくり返るくらい驚くに違いない。
 様々な感情がないまぜになった胸を押さえ、私は図書館に戻るために非常階段を上る。
 すると、上階の階段の片隅に誰かがうずくまっていることに気づき、ハッと歩みを止めた。
 学生だろうか。華やかな紅いワンピースを纏った華奢な背中には、念入りに手入れされたはちみつ色の髪がふわりと波打っている。
 私はそっと彼女に近づくと、体を屈めて体を寄せる。
「あの、大丈夫ですか? 気分が悪いなら人を呼びましょうか?」
 そう声をかけても、何も返事が返ってこない。妙な胸騒ぎを感じながら、私は彼女の肩にそっと触れる。

作品詳細

関連記事一覧

テキストのコピーはできません。