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【17話】美貌の教授は一途な司書に恋を甘く教える

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「とにかく、君には後で学長室に来るようにと伝言を預かっている。だけど大人同士の恋愛は自由だ。きちんと説明して、誤解を解くようにね」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
 深く頭を下げ、館長室を後にする。
 私とのことで、桂川先生に迷惑が掛かってしまったらどうしよう……。
 不安な気持ちに苛まれながら、私はただ呆然とデスクに座ったまま動けずにいた。

 指定の時間に学長室に赴くと、すでに桂川先生が学長席の前に立っていた。部屋に入った私に目で『大丈夫』と合図をしてくれ、それだけでホッと緊張の糸が緩む。
「それじゃ、この画像に写っているのは、あなたたちふたりで間違いないんですね?」
「はい。それは僕と、こちらにいる山本野々花さんで間違いありません」
「それじゃ、あなた方は特別な関係、ということですか」
「はい。まだ交際を始めたばかりですが、僕としては真剣に考えています」
 臆面もなく答える桂川教授に、朴訥な印象の学長は苦笑いを浮かべる。
「桂川先生、確かにあなたと彼女は共に独身だし、本来なら咎められることではありません。しかし大学として、こんな画像が理事長にまで送りつけられたことについては、ゆゆしき事態だと判断せざるを得ません。それに、一部の学生にはこの画像が出回ってしまっているようですし」
「大学を混乱させてしまったことについては、本当に申し訳なく思っています。それに彼女は卒業しているとはいえ、僕の教え子です。こんなことになった責任はすべて僕にあります」
「あ、あの、私も……社会人としての配慮に欠けました」
 思わず口を出した私に、「君は黙っていなさい」と桂川先生にやんわり叱られる。
 一方、学長の方は眉根を寄せたままだった。しばらく黙って何かを考えたあと、肘掛けのついた椅子に座って、ふうっと溜め息をつく。そしてさっきとは違うくだけた様子で、大げさに眉を上げた。
「朱雀くん、君のお父さんにはいつもお世話になっているし、僕も良い大人の君にあれこれ小言を言うつもりはない。……ところで、君は片山かたやまありすという学生を知っているかい?」
「三年の、僕のゼミの学生です」
「どうやら今回の件は彼女の仕業らしい。……何か心当たりは?」
「無きにしも非ず、といったところですか」
「おいおい、もうこれ以上のもめ事は勘弁してくれよ」
 大げさにため息をついた学長に一礼し、桂川先生は私の腕を掴んで学長室を後にする。私も慌てて一礼すると、先生の後に続いた。

 廊下に出ると、桂川先生はエレベーターを使わず非常口から階段に降りた。
 無言で私の手を引き足早に階段を降りる先生に、何故だか言い知れない不安が過ぎる。
「先生、ちょ、ちょっと待ってください。どこへ行くんですか!?」
「このまま野々花のご両親にお詫びに行く」
「え!?」
 突然の発言に一瞬パニックに陥ってしまい、思わず踊り場で桂川先生を引き留めた。
 もちろん私とのことを真剣に考えてくれるのは嬉しい。けれど今はそれより例の画像の件を何とかしなくてはならない。
 桂川先生の立場は私のような一介の司書とは違う。先生は華やかな容姿で注目されているだけではなく、研究の分野でも高く評価されていて、他大学や学会での講演も多数こなしている将来有望な文学者だ。
 こんなことで先生の経歴に傷がつけば、それこそ悔やんでも悔やみきれない。
 事の重大さに顔色を失う私とは対照的に、先生の方は一向に動揺する様子は無かった。

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