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【15話】美貌の教授は一途な司書に恋を甘く教える

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「花奈子とはまだ学生の頃、山路先生のお宅で初めて会った。第一印象はお互い最悪で、だからそれからしばらくはお世辞にも仲がいいとは言えなかったな。だけど不思議と縁が途切れることは無かった。彼女は世界中を飛び回っていたから何年も会わなかったこともあったけれど、今思えば例え一緒にいなくてもどこかで繋がっていられる安心感が、彼女と僕には有ったんだと思う」
 淡々と語る言葉には今でも深い愛情が見え隠れして、先生と花奈子さんの絆の深さに、打ちのめされる。
「だけど三十を過ぎた頃、花奈子が突然帰国してきて。いきなり癌だって言う。それももう末期。あと一年の命だって。だから一緒に暮らせって……。ほんと、バカみたいなやつだったけど、その時初めて彼女を愛していることに気づいた。だから本当にいい歳してバカみたいなふたりだったと思うよ」
 先生の想い。花奈子さんの想い。ふたりの不器用な愛情が伝わって、息苦しくて呼吸ができない。
「野々花」
 不意に甘い声で名前を呼ばれ、私は溢れそうな涙を必死に堪える。
「僕は花奈子を失ってもう永遠に誰のことも愛せないと思っていた。だけど君と出会って、また愛に出会うことができたんだ。誰よりも、自分よりも大切だと思える人に」
 肩を抱かれて引き寄せられ、先生の逞しい胸に顔を押し付けられる。
 私はその胸に手のひらを押し当て、そっと押し返した。
 ダメだ。このままではまた泣いてしまう。せめて眼鏡で顔を隠したい。
 先生の顔をみないよう、私は目を逸らしながら言った。
「あ、あの、先生、め、眼鏡を返して下さい」
「ダメだ。眼鏡をかけていない野々花をもっと見たい」
「だ、だって私、眼鏡をかけないと先生の顔も見えない……」
 そう言いかけたところで両方の手首を掴まれ、ソファに押し倒される。
 ハッとして見上げた先ほんの数センチの所に先生の顔があった。
「これで見える?」
 目鼻立ちの整った完璧な美貌。歳を経て更に磨きがかかった大人の色香が、切れ長の瞳を妖しく揺らめかせている。
 見る人を惹きつけるこの魅力の裏側で、彼がどんなに苦しい日々を過ごしていたのか。そのことを思うだけで胸が張り裂けそうだ。
 それに、こんなにも彼を苦しめている花奈子さんを、心底憎らしいと思う。
 こんなにも醜い嫉妬をしてしまう自分が、本当に嫌だ。
「どうして泣くの?」
 桂川先生の甘い声。まるで小さな子供をあやすような。その言葉だけで、私はまた簡単に恋の淵に落ちる。
「先生のことが好きだから」
 そう告げた端から、涙がひとすじ流れ落ちる。
 その涙を唇で拭いながら、桂川先生が言った。
「やっと言ったな。……本当に、君は少し強情すぎる」
 唇を重ねながら、桂川先生が優しく微笑んだのが分かった。
 そのまま先生に抱き上げられ、寝室に運ばれた。ベッドにそっと横たえられると、有無を言わさず組み伏せられる。
 ベッドに体が沈み込み、もう先生のことしか考えられなくなった。先生の顔が私の首筋に埋められ、柔らかな髪が頬に触れる。
 けれどふと視線を移した先に、小さなフォトフレームが飾られていることに気づき、私は小さく息をのむ。
 ぼんやりとだけれど、そこには仲睦まじい男女が映り込んでいた。
 まだ若い桂川先生が愛おしげに花奈子さんの肩を抱き寄せる姿が目に映り、私がいるこの場所でふたりが何度も愛し合ったことを悟る。

 この部屋になおも残る彼の愛した人の余韻に、また醜い嫉妬が私の胸を覆い、性急に重ねられようとした唇を思わず避けた。
 私の視線に気づいた先生はちらりとフォトフレームを見やり、またすぐに焦れた瞳で荒々しく唇を塞いでくる。
「先生、や……」
「ダメだ。野々花が二度と泣かないように、今ここで……抱いてやる」
 早急な仕草でシャツのボタンが外され、素肌が露わになる。それから、先生の唇と指が、全身を余すことなく辿り、潤していく。
「あっ……んっ……やぁ……」
 今まで誰にも触れられたことのない、自分すら知らない場所に先生の唇が辿りつき、とろけるような甘い疼きを与えられる。
 うわごとのように何度も名前を呼ばれ、彼のこと以外もう何も考えられなくなる。
「野々花……野々花」
「せんせ……やっ……」
 苦痛にも似た快感を与えられるたび、怖れに震える私を先生が甘く口付ける。深く深く、溶け合ってしまうように。
「愛してる」
 先生の言葉と共に私に刻まれた熱が、やがて私を意識の彼方に攫って行った。

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