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【11話】美貌の教授は一途な司書に恋を甘く教える

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「山路先生、こちらは山本野乃花さん、僕の元教え子です。山本さん、この方はこちらの館長で山路先生。僕の恩師だ」
「初めまして。山本です」
「山本さん、今日はお越しいただいてありがとうございます」
 山路先生はニコニコしながら私と桂川先生を見比べる。
「朱雀君が女性を連れている姿を見るなんて……本当に久しぶりだな」
「山路先生」
「いや、これほど嬉しいことはない。花奈子かなこだって、むこうでどれほど安心しているか知れないよ。花奈子が生きていた頃はあれほど才気と情熱に満ちて太陽のように朗らかだった君が、この十年、まるで冷たい氷のようだったからね」
 山路先生が口にした花奈子という女性の名前に、桂川先生の表情が変わった気がして、心臓がズキンと痛む。
 いったい誰のことなんだろう。生きていた頃ということは、その方はもう亡くなられているんだろうか。
 不安げに桂川先生を見上げる私に気づき、山路先生が慈愛に満ちた眼差しで笑いかけてくれる。
「お嬢さん、今日はお会いできて本当に良かった。……しかしずいぶん若いお嬢さんだ。失礼だが、おいくつかな」
「二十五歳です」
 そう答えると、山路先生は一瞬言葉を失い、そして高らかに笑い出した。
「そうか、それはいい。花奈子だって二十も年下の相手なら、嫉妬だってしやしない。……しかし朱雀君も隅におけんな。まぁ男ってやつは、惚れてしまえば止まらなくなるもんだ」
「山路先生、お話が飛躍しすぎです。彼女とはそういうことでは……」
「ほう、そうか。まぁ老いぼれが余計な口出しするのは止めておくよ。いらないことをしたら、花奈子に怒られるからな」
 山路先生はそう朗らかに笑った。

 その後、桂川先生は会場に来ていた関係者の方々からひっきりなしに挨拶され、身動きが取れなくなってしまった。
 私は邪魔にならないよう、人影が少ないソファに腰かけ、園庭を眺める。
 遠くから見ていると、桂川先生の周囲には本当にたくさんの人たちが集まっていて、いかに先生に人望があるのかがよく分かる。
「となり、よろしいかな?」
 肩を叩かれ、ハッとして振り返るとすぐそばに山路先生が立っていた。
「山路先生! はい、もちろんです」
 笑顔でそう答えると、優しくアイコンタクトで微笑みながら、飲み物が入っている紙コップを渡してくれる。
 紙コップの中身はホットミルクティー。通常こういう場面ではコーヒーを渡されることが多いけれど、私はコーヒーが飲めないのでとても助かる。
 ……桂川先生も、私に買ってくれるのは何故かいつもミルクティーだけれど。
「朱雀君は相変わらず人気者だな」
 山路先生は私の隣に腰かけると、優しく目を細めながら談笑の中心にいる桂川先生を見やった。
「実は朱雀君は私の教え子でね。学生の頃はよく家に遊びに来ていたんだ。それでいつの間にか同い年だった娘の花奈子と親しくなってね」
「花奈子さん……お嬢さんは桂川先生の……」
「朱雀君は何も話してないんだな。そう。十年前亡くなった僕の娘と朱雀君は夫婦だったんだよ」
 心のどこかで予想していた答えが山路先生から告げられ、分かっていたはずなのにざわざわと胸が騒ぐ。
「最初出会った頃の彼らは、結婚だなんて誰も想像できない感じだったよ。朱雀君は君も知っているように少し気難しい男だし、娘は娘で少し変わり者でね」
「変わり者……?」
「そう。おおよそ同じ年頃の娘さんたちとはまるで違っていた。あまり外見に構うタイプでもないし、人の目なんて全く気にしない、自分の生きたいように生きる娘だったから」
 そう淡々と語る山路先生の言葉は、お嬢さんに対する愛情で満ちている。例えもう会えなくても、深い部分で――たぶん魂と魂で結びついているのだと感じた。

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