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【10話】美貌の教授は一途な司書に恋を甘く教える

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初めての学外デート

「えっと……これでおかしくないかな」
 私はショーウィンドーに映る自分の姿を、もう一度確認する。
 今日は先生と美術館へ出かけるため、待ち合わせ場所である最寄りの駅までやってきた。
 昨日の夜は本当に大変だった。とにかく着ていく服が決まらない。男の人とふたりで出かけること自体が初めてなのに、その相手が長年憧れ続けていた桂川先生ともなれば、もう何をどうしていいやらさっぱり分からなかった。
 クローゼットの中身を引っ張り出してとっかえひっかえ試してみたものの、普段から地味な格好しかしていない私に垢抜けたコーディネイトなどできるはずもない。
 髪だってそうだ。昨日スチームアイロンで巻いてみてはと試したものの、なんだかおかしな髪型になってしまった。普段目にする華やかな学生たちのようには、どうしてもできなかった。
 結局私が選んだのは紺地に小花柄のワンピース。少し可愛らしいデザインなので職場には着ていけないが、薄い生地でふわりとしたAラインがお気に入りだ。
 髪はもう巻くことは諦め、いつも通りの肩までのストレートだ。
「ちょっと子供っぽいかな……」
 先生とお出かけするなんて、本当に想定外の出来事だ。もう少し時間があれば洋服を買ったり美容院に行くこともできたのに。
「おはよう」
 ショーウィンドーに向かって百面相をしていた私の背後から、不意に肩を叩かれた。
 振り返るとすぐそばに桂川先生が立っている。
 今日の先生はブルージーンズにシャツ、その上にベージュのジャケットを羽織っている。
 大学では見たことのないラフな姿だけれど、服装がカジュアルな分、なおさらその美貌が際立っていて、思わず見とれてしまうほどだ。
「ごめん、待たせたかな」
「いえ、私も着いたばかりだったので」
 そう言って先生を見上げると、私を見下ろす綺麗な瞳が、ちょっと眩しそうに細められた。
「なんだかいつもと雰囲気が違う」
「あ、あの、ちょっと子供っぽいかなって思ったんですけど」
「……逆に、いつもより女性らしく見えるけれど。とてもよく似合っている」
 先生に褒められ、恥ずかしさのあまり体中の熱が顔に集中する。
「じゃ、行こうか」
「はい」
 私は歩き出した先生の後を、遅れないようについていった。

 駅から海に向かって十分ほど歩いたところに、目的の美術館はあった。
 元々は企業のオーナーが住んでいた自宅を美術館として開放しているというだけあり、館内に入ると美しく整えられた日本庭園がガラス越しに見える造りになっている。
 入館して表示に従って順路を進むと、『文学と絵画』というタイトルで催されている企画展の入り口に辿りついた。
 会場は、この規模の展示会にしては結構な人数の人々で賑わっている。
 私は桂川先生が丁寧に解説してくれるのを聞きながら順路通りに進んでいく。
 ……まるで本当に講義を受けているみたい。
 大学時代にいつも聞いていた声が私だけに語りかけてくれるのが嬉しくて、どの展示もとても興味深く私の心に浸透していく。
 一通り見て回ったところで、私と桂川先生は日本庭園に面したロビーに設置されているソファに腰かけた。
 美術館としては小規模だが、この建物全体で五百坪ほどあるという。さすが一流企業のオーナーの元自宅、住居としてはかなりの広さだ。
「朱雀君!」
 この建物と日本庭園の造りについて説明してくれていた先生の背後から、不意に老紳士が声をかけてきた。その顔を見た先生が、慌てて立ち上がる。
山路やまじ先生。ご無沙汰しております」
「いやいやこちらこそ、今日は来てくれてありがとう」
 先生の隣に控えていた私に、山路先生と呼ばれた紳士がちらりと視線を移す。それを受け、桂川先生が私の背中にそっと手を回した。

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